『ガクモンの神様』戯曲

2020年2月6日に初日を迎えました劇団仲間新作『ガクモンの神様』(作・演出:西上寛樹)の上演台本を子どもたちの質問入りで全編公開いたします。どうぞご覧くださいませ。

※本作は、劇団仲間の上演台本であり小学校の体育館公演を念頭においたオリジナル作品です。本作の著作権は作者に帰属します。有償・無償に関わらずいかなる場合も、作者の許諾なく本作の一部、また全編を使用したり、コピーして配布することは出来ません。

『ガクモンの神様』
(劇団仲間上演作品)

【登場人物】

アミ
学問の神(アミの父)
宣来子命(のぶきのみこと)(アミの母))

コーヨー先生
南雲アナウンサー

他、ラジオに電話をかけてくる子ども達

語り手1、2


  • プロローグ

語り手が登場。

語り手1    ある晩のこと。一人の男の子が、お母さんに「お月様はどうしてついて来るの?」って聞いたの。そしたらお母さんは「どうしてだろうねえ」って笑ったの。

語り手2    またある時、男の子はこんなことを考えた。「恐竜も泣く時はあるのかなあ」ケンカで負けたあとだった。

語り手1    「スイカの種を食べたら本当にお腹にスイカがなるの?」男の子の不思議は、どんどん増えていった。

アミ            なんで足が早い人と遅い人がいるの? セミはどうして練習しないのに空が飛べるの? 金目鯛の目の周りでチューチューすると美味しいところがあるけど、あれって魚の涙?

演者2        不思議はもう止まらない。

アミ            ザリガニってカニ? エビ? どうして男にもおっぱいがあるの? 言葉って誰がどうやって作ったの? なんで? どうして? わかんない! どうして色んなことが知りたくなっちゃうの?

語り手1    でも、その子も大きくなって、色んな事が不思議に思わなくなったの。いや、気になることがないわけじゃないけど、気になってもすぐに忘れるようになってしまったの。

語り手2    いや〜そんなもんでしょ子どもって。普通普通。心配することじゃないよ。

語り手1    でもこの子、学問の神様の一人息子なんだよ。

語り手1、アミに仮面を被せる。

語り手2    学問の神様の一人息子?

語り手1    しかもYouTube中毒。

アミ、退場。

語り手2    そりゃまずいな。あの子の名前は?

語り手1    アミ。

太鼓の音とともに、語り手1、2は仮面を装着してアミの母と父になる。
アミの母(宣来子命)、登場。


  • 天上界

宣来子命    (狂言風に登場)私は学問の神の妻にして、アミのお母さんです。(おもむろに)ふふ。ふふふふ……。私嬉しいの。だって、最近人間界の子ども達はみんないーっぱいお勉強してくれるんだもん。あ、でも一つ気になることがあるの。YouTube。最近家に帰るなりWi-Fi繋いでYouTube2時間も3時間も見ちゃう子がいるんだって? でも、ウチも他人事ではありません。そのWi-Fiがここ天井界までビュンビュン飛んでくるので、息子のアミがYouTube200時間も300時間も見ちゃって。学問の神の息子がスマホ中毒だなんて恥ずかしい。(狂言風に泣く)くう〜く、く、く……。こうなってはもう仕方ない。お父さんを呼んでお灸を据えてもらいましょう。お父さん。お父さん!

学問の神    (狂言風に登場)はあ〜学問の神にして、アミのお父さんです。

宣来子命    ちょっとお父さん。アミに言って!

学問の神    言うって何を?

宣来子命    夏休みの宿題に決まってるでしょ!

学問の神    何? アミのやつ夏休みの宿題やってないのか?

宣来子命    やってないどころか鞄から出してもないわ。あの子ね、スマホ中毒なのよ!

学問の神    スマホ中毒!? (狂言風に泣く)くう〜 学問の神の子が宿題をおろそかにするとは何たることか。早速アミの部屋に行って、きつくお灸を据えてやる。

宣来子命    お願いします。

学問の神    え? 一緒に行かないの?

宣来子命    私はエステの予約がありますのでお父さんお願いします。

学問の神    はあ〜

宣来子命、退場。

学問の神    相変わらず人使い……じゃなくて神使いが荒いんだよなあ。にしてもアミの奴、スマホ中毒になっていたとは。スマホは調べ物に便利と聞いて、学問の助けになると思って買ってあげたんだけど。教育って難しいなあ。おお、そんなことを言っている内に、はや息子の部屋に着いた。これアミ。アミ。

アミ            ♪(流行のユーチューバーの文句)♪ ははは! YouTubeサイコー

学問の神    アミ。アミ。

アミ            あ、お父さんだ。何?

学問の神    アミ、お母さんに聞いたぞ。夏休みの宿題をやっておらぬそうだな? 全く。学問の神の子ともあろうものが、夏休みの宿題をおろそかにしてYouTubeばかり見ていては……

アミ            終わったよ。

学問の神    え?

アミ            もう終わった。ほら。(宿題を渡す)

学問の神    パラパラパラパラ。終わっておる。

アミ            本当は全部スマホで調べてやったんだけどね。

学問の神    何か言ったか?

アミ            言ってません言ってません。おー! (人気ユーチューバーの名前)の新着動画届いてる。みーよおっと。

学問の神    これ。話している時はスマホをしまいなさい。確かに宿題は終わっておるが、スマホはもういい加減にして、勉強しなさい。

アミ            何で? 宿題終わったんだよ。

学問の神    確かに宿題は終わっておる。しかしお前は学問の神の子ども。たとえ宿題が終わってもYouTubeにうつつを抜かしておる暇などない。一に勉強二に勉強。三、四が抜きで五に勉強じゃ。

アミ            えー? じゃあ三と四にYouTube。

学問の神    それはならぬ。三、四はただの言葉の語呂合わせ。何も入らぬ。

アミ            そんな〜 オレ勉強ばかりしてたら死んじゃうよ。

学問の神    死にはせぬ。それ。

アミ            あ! Wi-Fi切れちゃった。ちょっと〜 これじゃYouTube見れないじゃんか。

学問の神    そんなもの見ている暇はない。お前は勉強しなければならないのじゃ。

アミ            なんで?

学問の神    なんで?

アミ            なんで勉強しなくちゃいけないの?

学問の神    そんなこと……立派な大人になるために決まっておるだろう。

アミ            それは人間の子どもの話でしょ。オレは神様だから生まれた時から立派だもん。

学問の神    馬鹿者。生まれた時から立派な神様なんかいるものか。神様こそ人間のお手本になるべく沢山努力をしなければならないのじゃ。そしてわしらは学問の神。人間の子どもたちのお手本になるようにしっかりと勉強に励むのじゃ。

アミ            なあんだ。それならオレはやっぱり勉強しなくていいや。だってオレ、学問の神様になんかならないもん。

学問の神    学問の神様にならない?

アミ            うん。オレはYouTubeの神様になるんだ!

学問の神    YouTubeの神様?

アミ            (柏手を打って)「動画視聴回数が伸びますように」「チャンネル登録者数が増えますように」「いいねがたくさんつきますように」

学問の神    YouTubeの神様なんてあるものか。

アミ            ないよ。だから俺が作るんだ!

学問の神    イカーン!

語り手1    その時暗雲立ち込めて雷がアミの頭上に、

雷が落ちる。

アミ            うわ! あぶないあぶない。ちょっと雷止めてよ。自分の子どもに雷落とすなんてひどいよ。

学問の神    YouTubeの神様になりたいなんてお前はもううちの子じゃありません。勘当です。

雷が落ちる。

アミ            勘当?

学問の神    ほら。勉強していないから勘当も知らない。勘当とは親が子どもを家から追い出すこと。つまりこの場合、お前を天上界から地上の人間界におい落とすこと。

雷が落ちる。

アミ            えー! タンマタンマタンマ。やだよ。人間界ってごちゃごちゃしてて空気が汚いんでしょ。分かった。勉強するから人間の世界だけは勘弁して。

学問の神    問答無用!

アミ            うわー

アミ、地上に落ちていく。

       家に戻りたかったら、人間の子どもたちの役に立ちなさい。ちょうど今は人間の世界も夏休み。ラジオで「ふしぎ子ども電話相談」という番組をやっておる。お前はその番組の相談員となって子どもたちの学業発展のために働くのじゃ。

アミ            ずるいよお父さん。自分の条件ばっかり。

        最後まで聞け。実はこの番組は聴取率が低迷しており、このままいけばこの夏休みで放送が打ち切りになってしまう。もしお前が頑張ってこの番組を人気番組にすることが出来たら、一に勉強、二に勉強、三、四が抜きで五に勉強の三と四にYouTubeを入れてやろう。

アミ            え? 本当に?

        ワシは学問の神。嘘はつかん。

アミ            やったー え? なに? ラジオ番組の人気が出るようにすればYouTubeまた見ていいんだね。

父        いかにも。

アミ            そんなの楽勝だよ。だってオレ神の子だもん。

        その神の子という身分はこの世界では隠さなければならない。お前は今からカナダ帰りの天才女性科学者23歳、アミ・スガワラだ。

アミの面が外される。

アミ            うわ。女んなっちゃった。カナダ帰りの天才女性科学者アミ・スガワラ……謎多そー よし! じゃあやってやろうじゃないですか。(女性として言い直す)やってやろうじゃないですか。っていうかラジオって何だっけ?

語り手        その時、地上ではラジオ番組が始まっていた。


  • ラジオ局

南雲アナウンサーとコーヨー先生が登場。

南雲            ラジオをお聞きの皆さん、おはようございます。今日もふしぎ子ども電話相談の時間がやってきましたよ。この番組は、全国のお友だちの「なんで? どうして? 分かんない!」という質問に先生がお答するという番組です。司会は「子どもの時からマイペース」私南雲アナウンサーが務めます。そして先生は、

コーヨー    子どもの時から宇宙が大好き。天文学者のコーヨーです。

南雲            コーヨー先生今日もよろしくお願いします。

コーヨー    よろしくお願いします。(突然語り手2になって)あれ?

語り手1    どうしたの?

語り手2    ひょっとしてみんなラジオって分かってない?

語り手1    うそ。(客席に)みんな、ラジオって知ってますか?

客席とのやり取り。
もし子どもたちがラジオを知らなければ、簡潔にラジオについて教える。

南雲            それと本日からもう一人新しい先生をお迎えしますよ。カナダ帰りの天才科学者アミ・スガワラ先生です。あれ? アミ先生がいらっしゃいませんねえ。おかしいなあ。生放送で寝坊しちゃったんですかねえ。

コーヨー    あそこに誰かいますよ。

南雲            本当だ。すいませーん。もしかしてアミ・スガワラ先生じゃないですかー?

アミ            え? あ、そうです。

南雲            やっぱり。アミ先生もうラジオ始まってますよ。こっちこっち。入ってください。

アミ、ラジオブースに入る。

南雲            みなさんお騒がせしました。今、アミ・スガワラ先生が到着しましたよ。アナウンサーの南雲です。

コーヨー    相談員のコーヨー です。

アミ            えっと、カナダ帰りの天才科学者アミ・スガワラです。あれ?

南雲            どうしました?

アミ            いや、南雲アナウンサーとコーヨー先生、お母さんとお父さんにそっくり。

南雲            お母さん?

コーヨー    お父さん?

アミ            あ! いや、口のあたりが似てるかな〜って。

コーヨー    他人の空似ってやつですかね〜

アミ            他人っていうか神様なんだけど……

南雲・コーヨー    え?

アミ            いやいや、なんでもないです。

南雲            ではアミ先生のことを早速伺っていきましょう。アミ・スガワラ先生は、カナダ帰りの天才科学者と伺っていますが、ご専門は?

アミ            ご専門?

南雲            コーヨー先生は、天文学、宇宙をご専門とされていますが、アミ先生はどの分野の先生なんでしょうか?

アミ            全部。

南雲            全部?

アミ            生き物・天気・宇宙・AI……だいたい全部いけますね。スマホを使えば。

南雲とコーヨー    スマホ?

アミ            あ、いや親父一応学問の神なんで。

南雲とコーヨー    学問の神?

アミ            ああ! えっと、父が学問の神とあだ名されるくらい勉強の好きな人で、なんだかんだで厳しく育てられたものですから一応全部いけるかな〜

南雲とコーヨー    おお〜

南雲            アミ先生は、子どもの時好きだったことなにかあるんですか?

アミ            それはもちろんYouTube!

南雲            YouTube?

アミ            いや勉強。趣味勉強です。

南雲            コーヨー先生、頼もしいですね。

コーヨー    ほんとですね。

南雲            では、早速一人目のお友だちと電話をつないでみたいと思います。

コール音。

南雲            もしもしー

                もしもし。

南雲            お待たせしました。では、お名前と学年を教えてください。

                赤井カンナです。一年生です。

南雲            はい。では、カンナちゃんの質問は何ですか?

カンナ        お月様はどうしてついて来るんですか?

南雲            お月様がカンナちゃんについて来ちゃったの?

カンナ        うん。

南雲            それはいつ?

カンナ        きのう〜

南雲            昨日? びっくりしたから聞いてみたくなったのね。

カンナ        いや、びっくりしたっていうか何でかなーって思って。

南雲            はい。では、コーヨー先生に聞いてみましょう。コーヨー先生お願いします。

アミ            なるほど。これで質問に答えればいいんだな。月がどうしてついて来るかって? (スマホで検索する)そんなの簡単。月がものすごく遠くにあるからさ。走っている時、近くの物はビュンビュン移動しているように見えるけど、遠くの山はゆっくりしか動かない。月はうんと遠くにあるから動いていないように見える。つまり、付いてきているように見えるのは目の錯覚。別にカンナちゃんのあとを付いてきてるわけじゃないのよってな感じかな。さて、コーヨー先生はどう答えるんだろう。

コーヨー    カンナちゃんおはようございます。

カンナ        おはよ〜

コーヨー    お月様がなぜカンナちゃんのあとを付いて来るか。それはお月様はカンナちゃんの事が好きなんだね。

アミ            は?

コーヨー    だからカンナちゃんのあとを付いて来たんだよ。

アミ            いやいやいや、好きとかじゃねーだろ。相手月だぞ。意思ねーから。

カンナ        でもお父さんの後もついてきたよ。

コーヨー    そう? じゃあお月様はカンナちゃんのお父さんのことも好きなんだね。

アミ            おいおい、大丈夫か。

カンナ        そっかあ!

アミ            ほら。信じちゃったぞ。南雲アナウンサー、このオッさん嘘ばっか教えてますよ。いいんですか。

南雲            う〜ん、ロマンチック。

アミ            ダメだこりゃ。

南雲            カンナちゃんどうだった?

カンナ        おもしろかった。

南雲            おもしろかったねえ。じゃあ、またお月様がカンナちゃんの後をついて来たら教えてね。

カンナ        いいよ。

南雲            ふふ。じゃあまたね。

カンナ        バイバイ〜

南雲とコーヨー    バイバイ〜

アミ            ジ〜

南雲            どうしましたアミ先生?

アミ            今の説明でいいんですか?

南雲            え?

アミ            いや、説明があんまり適当すぎるんじゃないかと。

コーヨー    まだ一年生ですし、いいんじゃないですかねえ。

アミ            そうですか。

南雲            では、次のお友だちとお電話をつないでみましょう。

コール音。

南雲            もしもしー

声                あ、もしもし。

南雲            お、しっかりした声ですね。では、お名前と学年を教えてください。

                田中広輔です。六年生です。

南雲            はい。では、広輔くんの質問を教えてください。

広輔            あの、どうして、猿は人間にならないんですか?

南雲            どうしてそう思ったの?

広輔            人間は猿から進化したと聞きました。ではなぜ今の猿は人間に進化しないのかと思ったからです。

南雲            ではもうこの質問もコーヨー先生に答えてもらいましょう。

アミ            答えるったって、また適当なこと言うんだろ?

コーヨー    広輔くんコーヨーです。お久しぶり〜

広輔            あ、お久しぶりです。

アミ            なんだ知り合いか?

コーヨー    すごいね。六年生になってそんなこと考えてたか。猿はどうして人間にならないか。うん。人間の根本的存在について考えるでっかい質問だ。いつそう思ったの?

広輔            この間家族で滑床(なめとこ)に行ってたんですけど、

コーヨー    ナメトコ?

広輔            あ、山です。そこで、猿がいて、見てたら、突然怒り出して、お菓子を取られちゃったんです。それで……

コーヨー    ハハハハハ。

アミ            笑ってるし。

コーヨー    猿の目を見ちゃいけないんだなあ。僕達は目を見ないで話すと失礼になっちゃうけど、猿は目を見ることが失礼になるんだ。逆なんだよね。このことからも分かるけど、僕たちと猿は別の生き物なの。だから人間は猿から進化したんじゃなくて。猿と共通の祖先から進化した、という言い方が正しい。でね、これは大体3千万年前くらい前のことと言われています。

アミ            今度はまともに説明してんじゃん。

コーヨー    だからもし、広輔君が猿に向かって「俺たち人間はお前たちから進化したんだぞ」って威張っても、猿はきっとこう言うよ。「は? 俺たちは俺たちで3千万年やってきたんだ。こいつ偉そうだな。お菓子取ってやる。ウキッ!」

コーヨー    ということは、なぜ今の猿は人間に進化しないかというと……なぜだろう?

広輔            え? う〜ん……なんでかなあ。

コーヨー    ははは。ゆっくり考えてみてください。

アミ            結局答えんのかい!

南雲            広輔君どうだった?

広輔            いやあ謎です。

南雲            じゃあまた電話かけてきてね。

広輔            はい。ありがとうございました。

南雲            さようなら。

広輔            さようなら。

南雲            六年生の田中広輔君でした。

アミ            ジ〜

南雲            ?

アミ            あの、今のは質問に答えなくていいんですか。

コーヨー    まあ、六年生だし、いいんじゃないですかねえ。

アミ            ……

南雲            では、次のお友だちと電話をつないでみましょう。

コール音。

南雲            もしもしー

                ……

南雲            あれ? もしもしー

                ……

南雲            おかしいですね。電話は繋がってると思うんですが、もしもしー聞こえますかー

                フフフ……フフフフ……

南雲            あ、笑ってますね〜

                アハハハハハ。

南雲            まあ、楽しそう。今、何してるのかな?

                デンワ!

南雲            そうですよ。お電話してますよ。

アミ            何歳だよこの子。

                アハハハハハ。

南雲            盛り上がってますねえ。はーい。では、お名前とお年を教えてくださいー

アミ            えー この子にも聞くの?

                キャハハハハハ。

南雲            それどころじゃない感じですねえ。お名前言えるかなー

                ゆうちゃん!

南雲            ゆうちゃんは何歳ですか?

ゆう            3さい!

アミ            3歳で質問言えんの?

ゆう            キャハハハハハハハ。

アミ            ほら無理。切っちゃえ切っちゃえ。時間のムダムダ。

南雲            ええ、今ゆうちゃんは笑いの神様になりました。

アミ            え? こいつ笑いの神様なの?

ゆう            フーフーフー(受話器を吹く)フーフーフー

南雲            今度は風の神様に変身しました。

アミ            冗談かよ。もういいよ。

コーヨー    私、話してもいいですか。

南雲            どうぞ。

コーヨー    こんにちは。コーヨーです。風の神様に質問します。フーフーフー

ゆう            フーフーフー

コーヨー    なるほど。ということは、(強く)フーフーフー

ゆう            (強く)フーフーフー

コーヨー    はあ〜(納得)

南雲            コーヨー先生、風の神様は何と言っているんですか?

コーヨー    分かりません。

アミ            何じゃそりゃ!

ゆう            バイバーイ。

南雲            え? あ、バイバーイ。コーヨー先生バイバイですって。

コーヨー    バイバーイ。またかけてきてねー

アミ            またかけてきちゃダメだよ。もう。ちゃんと相談できる子どもとだけ話せよ。

南雲            アミ先生いかがでしたか?

アミ            (あわてて)いやあ、子どもは可愛いですねえ。

南雲            本当ですね。

音楽。

南雲            お時間が来たようです。ふしぎ子ども電話相談。今日はここまで。みなさん、さようなら〜

コーヨー    さようなら〜

南雲            こんな感じです。どうですか? 今日は、コーヨー先生にだけ答えてもらいましたが、明日からはアミ先生にもふっていきますね。

アミ            え、あ、はい……

南雲            ではよろしくお願いしますー

コーヨー    お疲れ様でしたー

南雲とコーヨー、退場。

アミ            やばいやばいやばいやばい。この番組超やばい。聞いてる人いんのかなあ? (と言いながら機材を見て)何だこれ。

パソコンに何か表示される。

アミ            「今日の聴取率」? 聴取率って何? (スマホを出して)聴取率聴取率……「聴取率とは、その番組をどれだけの人たちが聞いていたかを表す数字である」。ふーん、テレビの視聴率みたいなもんか。この番組の聴取率は‥…(見る)0.2%。低っ!(スマホに)ヘイ、リリー。「ふしぎ子ども電話相談」の評判教えて。

語り手2人、スマホになる。

語り手1    ピコン。ラジオ番組「ふしぎ子ども電話相談」のレビューをご紹介します。「子どもとの絶妙なやりとりが可愛い。でも勉強になるかは微妙。」

語り手2    「答えが適当すぎ。って言うか答えないことがほとんど。」

語り手1    「面白いけどためにはならない。」

語り手2    「ぶっちゃけ時間の無駄。」

アミ            やっぱ人気ないんだ。

語り手1    「っていうか聴取率3%取れないと終わるらしいですね。」

アミ            え? そうなの?

語り手2    「地味に楽しみにしてたからちょっと寂しいけど、正直終わるのは時間の問題かも。」

アミ            いやいや終わらせませんよ。終わっちゃったらYouTube見れなくなっちゃいますから。要は聴取率3%取ればいいんでしょ。楽勝ですよ。このアミ先生とこれ(スマホ)があればね。

語り手1    「コーヨー先生のファンです。子どもたちの疑問に寄り添うあの姿勢が好き。」

アミ            あ、もういいよ。ありがとうリリー

語り手2    恐縮です。

アミ            よし。みんなの声に答えてこの番組を人気番組にしてみせるぞ。改革だ〜 コーヨー先生! 南雲アナウンサー!


  • アミの改革

音楽の中、アミが番組を改革していく様子がコーヨーと南雲アナウンサーの人間あやとりによって表現される。
アミの指示によって、一つ目のあやとりが決まる。

アミ            オレが番組の聴取率をアップさせるためにまず2人に伝えたのは、子どもたちの質問が来たらまず正解を伝えること。余計な説明なんていらないからとにかく答えを教えます。いいですね。

2人            はい。

アミ            次!

二つ目のあやとりが決まる。

アミ            答えを言ったら必ず「分かりましたか?」と確認します。子どもの「分かりました」という言葉を聞くと親は安心しますから。いいですね。

2人            はい。

アミ            ラスト!

三つ目のあやとりが決まる。

アミ            小学生になってない小さい子の質問はパスします。いいですね。

2人            はい。

アミ            以上!

あやとり終わり。

アミ            どうですか? 私の三つの改革、お分かりいただけました?

南雲            何だかとっても難しかったです。

コーヨー    慣れないせいか、まるで首を絞められているように苦しかったです……

アミ            何を甘っちょろいこと言ってるんですか。そんなことでは聴取率3%なんて取れませんよ。そしたら二度とYouTubeが観られないんですよ!

2人            YouTube?

アミ            あ、じゃなくて、この番組が終わってしまうんですよ。

コーヨー    それは困ります。

南雲            私たちの大好きな番組ですから。

アミ            分かればいいんです。いいですか。私たちは運命共同体です。では、今日の放送、張り切っていきますよー

音楽。

南雲            ラジオをお聞きの皆さん、おはようございます。今日もふしぎ子ども電話相談の時間がやってきましたよ。この番組は、全国のお友だちの「なんで? どうして? 分かんない!」という質問に先生がお答するという番組です。司会は「子どもの時からマイペース……」

アミ            余計な紹介はしません!

南雲            私南雲アナウンサー、相談員はコーヨー先生とアミ先生が務めます。では早速いってみましょう。

コール音。

南雲            もしもしー

                もしもし。

南雲            お名前と学年を教えてください。

                崎須賀(さきすか)うらん、三年生です。

南雲            ではうらんさんの質問を教えてくださいー

うらん        鳥の鳴き声はどうして高い音なんですか?

南雲            なるほど。どうしてそう思ったのかな?

アミ            まず正解。

南雲            では先生に聞いてみましょう。アミ先生お願いします。

アミ            はい。それは、高い声の方が他の音に紛れないで遠くまでしっかり届くからです

南雲            え? それだけ?

アミ            はい。どう? うらんちゃん分かったかな?

うらん        うん。分かった。

アミ            では、次!

コール音。

南雲            もしもしー お名前と学年を教えてください。

声                小野寺カイトです。五年生です。

南雲            ではカイトくんの質問を教えてください。

カイト        あの、なんで気になる人が近くに来ると心臓がドキドキするんですか?

南雲            え? その気になる人ってもしかして好きな人のこと? ってことはもしかしてカイトくん好きな人が……

アミ            (南雲を急かす)

南雲            では、アミ先生に答えていただきましょう。

アミ            それは自律神経が心臓を刺激して心臓が血液を沢山出すからです。分かった?

カイト        分かりました。

アミ            次!

コール音。

シュウ        須藤シュウ四年生です。どうしてフクロウは夜でも目が見えるようになったんですか?

アミ            エサのネズミが夜行性だからです。分かった?

シュウ        ああ……

アミ            分かったかな?

シュウ        わかった。

アミ            次!

                カラスは虫歯になるの?

アミ            歯がないからなりません。分かった?

                分かった。

アミ            次!

語り手1    こうしてアミはどんどん質問に答えていった

アミ            次!

語り手2    答えはスマホで簡単検索

アミ            次!

語り手1    答えた質問は全部で、

語り手2    108コ!

アミ            終わり!

南雲とコーヨー    はあ〜

南雲            私、もうくたくたです。

コーヨー    私もです。一つも質問には答えてないんですけどね。

南雲            あらそうでした?

コーヨー    ははは。

南雲            アミ先生、じゃあ私たちはこれで。

2人、退場。

アミ            なんだい2人ともこれっぽっちのことで疲れちゃってさ。あ! それより今日の聴取率聴取率……

聴取率が表示される。

アミ            1.3%。よし! めっちゃいい感じ。俺はこの調子で次の日からもどんどん質問に答えていった。すると視聴者の感想もどんどん良くなっていった。ヘイリリー。ラジオ番組「ふしぎ子ども電話相談」のレビュー教えて。

語り手1    ピコン。ラジオ番組「ふしぎ子ども電話相談」のレビューをご紹介します。「この番組めっちゃためになる。」

語り手2    「子どもがどんどん賢くなる。」

語り手1    「アミ先生、マジ神ってる。」

アミ            ダハハハハ本物の神様だからね!

語り手2    こうして聴取率はうなぎ上りにアップしていった。

語り手二人            聴取率1.7%、1.8%、1.9%、2%!

アミ            よし3%までは時間の問題。待ってろよYouTube!

語り手2    しかし! 壁に耳あり障子に目あり。その時、二人の神様がこの様子をしっかと見つめていたのだった。

学問の神と宣来子命が登場。


  • 父母のたくらみ

宣来子命    見ましたか?

学問の神    見た。

宣来子命    はあ〜 「待ってろよYouTube」ですって。あの子、帰って来たらまたYouTubeばっかり見るつもりよ。もう! 勝手な約束なんかして。

学問の神    はっはっはっは。良いではないか少しぐらい。あれだけ人間の子どもたちからの質問にしっかりと答えられておるのだから。わしはあいつを見直した。

宣来子命    何が見直したですか。。あの子、スマホで答え検索してそれを言ってるだけですよ。

学問の神    なに?

宣来子命    だって、あの子質問に答える時、ずっとスマホいじってたでしょ。

学問の神    いじっとった。何をしとるのかと思った。

宣来子命    ああやってスマホで答えを調べてるんですよ。

学問の神    あんな一瞬でか?

宣来子命    それくらい今の子どもなら朝飯前ですよ。

学問の神    なんと!

宣来子命    だからあの子勉強しないんですよ。いつも言ってますもの。「こんなのスマホで調べりゃいいだけじゃん。勉強するだけ意味ないじゃん」って。

学問の神    くう〜

宣来子命    もう! なんであの子にスマホなんて買い与えたんですか?

学問の神    だって他の神様もみんな子どもにスマホ持たせてたから。ウチもそうした方がいいかなあって。

宣来子命    あれでも小さい時は、いろんなことに疑問を持って聞いてくる好奇心の旺盛な子だったんですけどねえ。

学問の神    本当に。ワシにはこんな質問をしたなあ。「ねえお父さん、どうしてセミは練習しないのにいきなり空が飛べるの? だって僕はハイハイして、よちよち歩きして、それからやっと走れるようになったんだよ。ねえどうして?」あの子が400歳の頃だったなあ。

宣来子命    私にはこんなことを聞いてきましたよ。「ねえお母さん、言葉は誰が作ったの? だって言葉の神様が『言葉を作ろう』って言ったとしてもそれがすでに言葉でしょ。じゃあ言葉はどうやって生まれたの?」あの子が600歳の時。

学問の神    あの頃は可愛かったなあ。

宣来子命    可愛かったですねえ。

学問の神    それが今や750歳。

宣来子命    人間の子どもでいったら11歳。

学問の神    憎らしいったらありゃしない。

宣来子命    全部スマホのせいね。

学問の神    よし! 全世界のスマホをワシの雷で焼き尽くしてやる!

宣来子命    ダメですよ。神様の中にもスマホ中毒の神様が沢山いるんですから。そんなことでもしたら世界がめちゃくちゃになってしまいますよ。

学問の神    ではどうすればいいのじゃ?

宣来子命    スマホで答えられない質問をぶつければいい。

学問の神    え?

宣来子命    あの子は、子どもたちの質問の答えをスマホで調べています。では、スマホでは答えられないような質問をぶつければいいんじゃないですか。

学問の神    なるほど。しかし、そんなこと出来るのか? 電話で質問をするのは人間の子どもだぞ。

宣来子命    人間の子どもを見くびってはいけません。きっといい質問を思いついてくれます。

学問の神    よし。では、質問をしてくれる人間の子どもを探そう。人間の子ども人間の子ども……

宣来子命    あなた、どこを見ているの? ここにこんなに沢山人間の子どもたちがいるじゃない。

2人、客席の子ども達を見る。

学問の神    本当だ。何だここは。学校か?

宣来子命    どうやらそうみたいね。あのすみません、ここの学校のお名前は?

先生            (返事)

学問の神    〇〇小学校! なんて賢そうな名前だ。よし、では、〇〇小学校の皆さんに聞いてみよう。何を聞くんだっけ?

宣来子命    スマホで答えられないような質問。

学問の神    そうだった。でもスマホで答えられないような質問ってどんな質問だ。わしスマホ持ってないから。

宣来子命    それを聞くの。

学問の神    そっか。皆さん、スマホで答えられないような質問ってどんな質問だと思いますか?

自由やりとり。
最初は質問ではなく「〜のような質問」などと答えるかもしれないが、「それってどんな質問がある?」などと、具体的にしていく。
具体的な質問が出たら、学問の神は、まず、質問を繰り返したのち一言感想を述べて、

学問の神    こんなに面白い質問をするとは何という賢い子じゃ。お主、うちの子にならんか。

宣来子命    あなた。

学問の神    いかんいかん。では次の質問!

と、次の質問を募集する。
質問は全部で三つ集めるので三回同じことをする。

学問の神    よし。では、この子たちに電話をしてもらおう。では、みなさんに電話の使い方を説明します。

宣来子命    私はアミの様子を見てきます。(退場)

学問の神    電話はこれじゃ。

学問の神、ロープを出す。

学問の神    うん? ロープにしか見えないって? いやいやこれはれっきとした電話じゃ。こんな感じで「もしもしー?」

子ども        (反応)

学問の神    おお飲み込みの早い。では、電話のタイミングが来たらこのワシが合図を出すからな。他の二人もよろしく頼むな。頑張るぞ。えいえいおー

子ども        (反応)

宣来子命    あなた、アミが来ましたよ。放送の時間です。

アミが登場。

学問の神    はて? コーヨー先生と南雲アナウンサーの姿が見えんが……

宣来子命    あの子、今日からは自分だけでじゅうぶんだって1人でやるみたいです。

学問の神    調子に乗りおって。目にもの見せてやるわい。

アミ            よーし、じゃあ今日もラジオの時間だ。どんな質問が来てもこのスマホがあれば楽勝楽勝。今日あたりで聴取率3%超えちゃいますよ〜 音楽スタート!

音楽。

アミ            ラジオをお聞きの良い子の皆さん、おはようございます。今日もふしぎ子ども電話相談の時間がやってきました。今日からより多くの質問に答えるために放送はこのアミ先生だけで行っていきたいと思います。では、早速1人目のお友だちと電話をつないでみましょう。

学問の神    今じゃ!

学問の神と宣来子命、アミと1人目の子どもを電話でつなぐ。

父と母        プルルルルル、プルルルルル、ガシャ。

アミ            もしもしー

1人目の子ども    (応答)

アミ            学年とお名前を教えてください。

1人目の子ども    (応答)

アミ            では、質問を教えてください。

1人目の子ども    (質問)

アミ            それは……

宣来子命    ほら。スマホで調べてる。

学問の神    本当だ。でもスマホで調べても出てこんぞー

アミ            (アドリブ的に)だ〜 こんなの出てくるわけないじゃんかよ〜

宣来子命    ほほほほほほほ!

学問の神    こうなったら自分で答えるしかないぞ。

アミ            こうなったら自分で答えるしかねえな。

アミ、真面目に考えて答える。
アミの答えで子どもが納得してもしなくても劇は進む。

アミが答えられない場合は、お父さんは「やったー」と喜び、答えられたら「惜しい〜」と悔しがり、どちらにしても質問をしてくれた子どもにお礼をいう。

学問の神    質問してくれてありがとう。みんな、拍手〜

アミ            よ〜し、次の質問だ。

と、こういうやりとりを3回繰り返す。

学問の神    電話してくれてありがとう。拍手〜

宣来子命    みんな、ありがとう〜

ラジオ、エンディングテーマ。

アミ            終わり? 今日は散々でしたけど明日からはまついつもみたいにどんどん答えていきますので、みなさん明日も電話かけてきてください。さようなら。(放送終わって)もう! なんだよあの質問。

語り手2    この日の放送を聞いて全国の子どもたちはこう思った。「な〜んだ。質問ってなんでもいいんだ」

語り手1    すると次の日から、子どもたちの自由奔放な質問がどんどん集まった。

語り手2    それはスマホではとても調べられないような質問ばかりだった。

語り手1    「どうしておにぎりはおいしいの?」

語り手2    「どうして野球をしてる人はお金持ちなの?」

語り手1    「どうしておばあちゃんの二の腕は気持ちいいの?」

アミ            そんなの知らねえよ〜 ごめん。分かりません!

語り手2    そしてついに「分かりません」と言ってしまった。

語り手1    あ!

語り手2    …頑張ってたんだけどね。限界が来たみたい。こんなことが一週間も続いたのでアミはついに、

アミ            やーめたっ(受話器を放り出す)あのう、ぶっちゃけてもいいですか。オレ、実は男です。それにカナダ帰りの天才科学者とかじゃなくて、子どもです。まだ750歳の。俺、嘘ついてました。実は、うちの親父、学問の神様なんです。こんなこと言っても皆さん信じないと思うんですけど、本当なんです。で、その親父が俺にも学問の神様になれって。でも、俺勉強できないんです。勉強わかんないのに学問の神様なんてなれるわけないですよね。で、俺勉強嫌になって、スマホばっかり見てたら怒られてここにやってきました。聴取率3%とったら、家に帰ってまたYouTube見れる約束だったんですけど、もういいです。さようなら。

語り手1    アミはそう言って電話を切ると聴取率を確認した。

聴取率が出る。

アミ            聴取率5.4%……なんで?

語り手1    ピコン。ラジオ番組「ふしぎ子ども電話相談」のレビューをご紹介します。「子どもの質問が面白すぎ」

語り手2    「相談員が「分かりません」って草。みんな早くラジオつけて」

アミ            炎上したんだ……。

語り手1    そこにお父さんとお母さんが姿を現した。

学問の神と宣来子命、アミの前に姿を現す。

アミ            お父さん、お母さん。

学問の神    アミ。やったな。

宣来子命    聴取率5.4%おめでとう。

アミ            おめでとうじゃないよ。俺、なんもやってないから。

宣来子命    子どもたちの質問に一生懸命答えてたじゃない。

アミ            答えられなかったの。

学問の神    いい勉強になったな。

アミ            こんなの勉強じゃないよ。とにかく聴取率は3%超えたから、またYouTube見てもいいんでしょ。

学問の神    約束は約束。仕方あるまい。

宣来子命    帰りましょう。

音楽の中、天上界への道行き。
アミは、人間界に未練を残しているようだがその気持ちを振り払うように走って去る。
時計の音。
アミ、再登場。


  • 天上界

アミ            お父さんとお母さんもあれからオレがYouTubeを観てもあんまりうるさく言わなくなった。一に勉強、二に勉強、三、四がYouTubeで五に勉強。今は勉強も一応してる。オレが天上界に戻ってきて一体どれだけの時間が過ぎただろう。最初帰ってきた時、綿雲のベッドに寝転んで見上げたお日様は、西の方にすっかり傾いていて眩しかった。遠くを飛行機が飛んでいる。飛行機が見えるのは別に珍しくなんかない。見慣れた風景。でもその時見えた飛行機はなんだか嘘みたいで、音も聞こえないから止まっているように見えた。でも飛行機雲は伸びていくからやっぱり前に進んでる。なんだ。普通の飛行機じゃないか。違って見えたのは、オレの心が嘘みたいに宙ぶらりんな状態だからだ。ほら。時計はこんな時もちゃんと時を刻んでる。なんだろうこの気持ち。時間が過ぎていくってこんなに寂しいものだったの? あーダメダメ。こういう時は、YouTube! ♪(冒頭のユーチューバーの文句)♪ ハハやっぱ〇〇最高。あーYouTubeは嫌なこと何もかも忘れさせてくれるんだよなー

音楽。語り手2人が歌を歌う。

語り手        ♪波は寄せては返し

                     雲は流れて消える

                     雨は石を叩き

                     思い出は風となる

                     僕がここにいたことを

                     誰が覚えているだろう

                     僕がここにいたことを

                     誰が覚えているだろう♪

アミ            あれ? もうこんな時間? さっきから時間が過ぎるのなんか早くなってない? 分かった。YouTubeのせいだ。YouTube見てたら時間が過ぎるのあっという間だから。でもちょっと……早過ぎるよ! ちょっと待って。待ってったら。こんなに早く時間が過ぎていくのって、なんか恐い。

語り手        ♪僕がここにいたことを

                     誰が覚えているだろう

                     僕がここにいたことを

                     誰が覚えているだろう♪

アミ            ほら。スマホ止めたから。止まれ。時間よ止まれ!

時計の針が止まる。

アミ            時間が……止まった……

音楽。

語り手1    ある晩のことだ。一人の男の子が、お母さんに「お月様はどうしてついて来るの?」と尋ねた。お母さんは「どうしてだろうねえ」と笑った。

語り手2    またある時、男の子はこんなことを考えた。「恐竜も泣く時はあるのかなあ」ケンカで負けたあとだった。

アミ            え?

語り手1    「スイカの種を食べたら本当にお腹にスイカがなるの?」男の子の不思議は、どんどん増えていった。

語り手2    ねえお父さん、どうしてセミは練習しないのにいきなり空が飛べるの? だって僕はハイハイして、よちよち歩きして、それからやっと走れるようになったんだよ。ねえどうして?

語り手1    ねえお母さん、言葉は誰が作ったの? だって言葉の神様が『言葉を作ろう』って言ったとしてもそれがすでに言葉でしょ。じゃあ言葉はどうやって生まれたの?

アミ            これ、オレが小っちゃい時考えてたことだ。ちっちゃい時は色んなことがめっちゃ謎だった。だれが言葉を作ったかとか、なんでセミって練習なしでいきな飛べんの? とか。え? じゃあこれってオレの記憶?

語り手1    金目鯛の目の周りでチューチューすると美味しいところがあるけど、あれって魚の涙?

語り手2    ザリガニってカニ? エビ?

アミ            そうそう。だからオレはいっつも、

語り手1    なんで?

語り手2    どうして?

アミ            わかんない! って言ってた。その時一番謎だったのが、

3人            どうして色んなことが知りたくなっちゃうの?

アミ            正直今でも分かんない。でもオレはこういうことを考えるのが好きだった。楽しかった。ワクワクした。そうか。だからコーヨー先生質問に答えなかったんだ。答えが分かっちゃうとワクワクが消えちゃうから。すでに分かってる答えにたどり着くのが本当の勉強じゃない。誰も知らない答えのことを考えてワクワクするのが本当の勉強なんだ。だとしたらオレは……

再び時計が動き出す。

アミ            時計が動き出した。あの番組どうなってるかな。(スマホで検索する)……聴取率0.7%。めっちゃ下がってる。え? 「当番組は人気がなくなりましたので今週で終了いたします。今までありがとうございました。」? ダメだよ終わらせちゃ。コーヨー先生、南雲アナウンサー、あるよ番組を終わらせない方法。オレ分かったんだ。行くよオレ! 待ってて。コーヨー先生、南雲アナウンサー!

音楽。アミが地上に降りていく様子。
途中、道に阻まれるがそこに父が登場しアミを助ける。
見守る母。
「ふしぎ子ども電話相談」がスタートする。


  • ラジオ局

南雲            ラジオをお聞きの皆さん、おはようございます。今日もふしぎ子ども電話相談の時間がやってきましたよ。この番組は、全国のお友だちの「なんで? どうして? 分かんない!」という質問に先生がお答えするという番組です。司会は「子どもの時からマイペース」私南雲アナウンサーが務めます。そして先生は、

コーヨー    「子どもの時から宇宙が大好き」天文学者のコーヨーです。

南雲            そして……

アミ            「趣味はYouTube」学問の神様の息子アミです。

南雲            アミ先生お帰りなさいー

コーヨー    お帰りなさいー

アミ            ただいま〜

南雲            いやあ、アミ先生って学問の神様の子どもだったんですね。

アミ            はい。

コーヨー    しかも男の子だったんですね。

アミ            はい!

南雲            というわけで、今日は久しぶりにこの3人で放送したいと思いますが、ここで新コーナー。「あなたも先生、ふしぎ子ども電話相談」〜。アミ先生、新コーナーの説明をお願いします。

アミ            はい。これまでこの番組では、子どもの質問に大人が答えてきました。でも、この新コーナーでは、質問も答えも皆さんにお願いしようと思います。というのも、前回聴取率が5%を超えた時、「子どもが子どもの質問に答えていたことが面白かった」という感想が多く集まっていたことが分かったんです。ですから今日は、皆さんに先生になってもらって、質問に答えていただきます。正しい答えじゃなくても大丈夫。それより、質問を聞いてピカって何か閃いたら思い切って答えてください。では、まずは質問の募集から。皆さんがこれまでに不思議だなあ、なんでかなあと思ったことはありませんか? もしあったら、なんでもいいので教えてください。

ここで、再び客席参加コーナー。
子ども達から質問を募集し、その答えも子ども達から募集する。
目的は正しいかどうかではなく、子ども達が楽しんでいるかどうか。

アミと南雲とコーヨー先生は子どもたちと一緒に楽しみながらこのコーナーを進める。
2つ目の質問とその回答が終わったところで、「では次が最後の質問です」と、3つ目の質問を最後として募集し、その答えを子ども達に答えてもらう。
区切りのいいところでアミが発言してくれた子ども達にお礼を言い、拍手を送る。

語り手1    こうして新コーナーは大盛り上がり。なんと、聴取率はこれまでで最高の7.8%を記録した。

語り手2    番組は終了するどころか、人気番組として毎週日曜日に放送されることになった。つまり、

語り手        レギュラー化!

アミ            ヒャッホー。親父ーラジオ聞いてるかー? もしこれが本当の勉強なら、オレ学問の神様になってもいいぜ!

演者1        なんで?

演者2        どうして?

演者3        分かんない!

三人           どうして色んなことが知りたくなっちゃうの?

終わり


【上演時に子ども達から出た質問】

・どうしてリンゴはおいしいの?(2年生)

・なぜ宇宙はあるの?(3年)

・ギターの弦は何で6本なの?(5年)

・人間はどうしてできたの?(1年)

・どうして心臓はひとつなの?(3年)

・ハンサムの基準ってなんですか?(5年生)

・どうして命は一つなの?(6年生)

・地獄では何をやっているの?(4年生)

・どうして人間には寿命があるの?(3年生)

・妖怪は本当にいるの?(1年生)

などなど