『ズッコケ時間漂流記』戯曲

この戯曲は、2011年より人形劇団ひとみ座で上演されています。

※本作作品の著作権は著者に帰属します。上演をご希望の方は、有償・無償に関わらず西上寛樹(info@amano-jaku.com)までご連絡をお願いいたします。
また、縦書きのものをご覧になられたい方は、上記アドレスまでご一報ください。メールでお送りいたします。

『ズッコケ時間漂流記』

2017年度改定

原作 那須正幹

脚本 岡本三郎

脚本・演出 西上寛樹

 

(登場人物)

  • ハチベエ
  • ハカセ
  • モーちゃん
  • 安藤佳子
  • おしの
  • 平賀源内
  • 佐竹
  • 千次
  • 捕り物衆
  • 蕎麦屋
  • 飛脚
  • 江戸の人々
  • 語り手

※舞台はケコミ芝居。

舞台の脇には、エレキギターやドラムなどが並べられている。語り手と演者は、時にロックバンドの演奏を交えて芝居を進めていく。

 

 

1放送室


朝の放送の優雅な音楽が流れる。

 

ハチベエの声   これから朝の放送を始めます。花山第二小学校のみなさん、今日も元気に登校できましたか?今日は…

 

緞帳開く。放送室の風景。

 

ハチベエ      今日は11月25日月曜日。楽しい一日のはじまり。今日も元気に過ごしましょう。

モーちゃん     今日の給食は、牛乳、焼きそば、ロールパン、チーズ、みそキャベツ、みかんです。

安藤          続きまして

モーちゃん     「僕の夢」

安藤          「私の夢」

ハチベエ      「みんなの夢」

安藤          のコーナーです。今日紹介するのは2年2組山下めぐみさんの作文です。『私の夢はサッカー選手になることです。ワールドカップで優勝して得点王になりたいです。今はリフティング20回頑張ります。」

 

ハチベエ、つまらなさそうに放送席を離れていく。

 

安藤          素敵な夢ですね。頑張ってください。これで朝の放送を終わります…ちょっとハチベエ、放送中はおとなしくしてなさいよ。

ハチベエ      何が「みんなの夢のコーナー」だよ。恥ずかしくてやってらんねえよ。

安藤          フン!

 

ハカセ登場。放送器具の観察を始める。

 

安藤          山中君。何してんの?

ハカセ        今度ワクワク実験教室で音の伝達について勉強するんだ。その調べもの。

安藤          いや、そうじゃなくて山中君放送委員じゃないでしょ。

ハカセ        (気にせずメモを取っている)

安藤          はあ。奥田君も。なんで朝の放送で給食をアナウンスするの? おかしいでしょ?

モーちゃん     そお?

ハチベエ      こいつは食いしん坊だからな。(モーちゃんのお腹を触る)

モーちゃん     ちょっとやめてよハチベエちゃん。

安藤          もういや! 花の放送委員があんた達のせいで台無し!

ハチベエ      あっそ。じゃあやめれば? 放送委員になりたいって女子はお前以外にもいっぱいいるんだからな。

安藤          (ハチベエの元へ)

ハチベエ      なんだよ?

 

安藤、ハチベエの足を踏む。

 

ハチベエ      イテッ!

安藤          授業はじまるわよ。

 

安藤退場。

 

モーちゃん     教室戻ろっか。

ハカセ        あれ?これついてるけど…

ハチベエとモーちゃん  (点灯中のランプを読む)ほうそうちゅう。

 

慌ててスイッチを切るモーちゃん。

 

モーちゃん     ・・・全部流れちゃった。

ハチベエ      やべえぞこれ。

ハカセ        僕は、放送委員じゃないから。(退場)

ハチベエ      俺たちも、逃げろー!(退場)

 

語り手登場。

 

語り手        これよりお届けしますのはズッコケ三人組の物語!

 

ズッコケバンドによる演奏スタート。

そこに逃げる三人組の姿。語り手が三人を紹介する。

 

語り手        三人はミドリ市花山町花山第二小学校の六年生。八谷良平。あだ名はハチベエ。身長137㌢、体重28㌔。山中正太郎。あだ名はハカセ。身長140㌢、体重30㌔。奥田三吉。あだ名はモーちゃん。身長158㌢、体重63㌔。三人はズッコケ三人組と呼ばれている!

 

演奏終わりで、タイトル幕『ズッコケ時間漂流記』が掲げられる。

語り手、ギターで「ほたるの光」を演奏する。

 

語り手        放課後。ここは花山第二小学校の体育館。三人は放送事故を引き起こした罰として、体育館の掃除を命じられた。

 

2体育館


体育館の風景。奥の方に大きな鉄扉がありそこには「立ち入り禁止」の文字。

掃除をしているハチベエとモーちゃん。本を読んでいるハカセ。

ハチベエが掃除をしていると、ポテトチップスの袋が出てくる。

 

ハチベエ             誰だよ。こんなことでポテチ食ったやつ。モーちゃん、お前か?

モーちゃん         違うよ。

ハチベエ             ったく。

 

モーちゃん、ゴミ捨てに一度退場。

 

ハチベエ      あ~あ、なんで安藤は、お咎めなしなんだよ。あいつが一番悪いだろ。こういうのを男女差別っていうんだよなあ。

 

モーちゃん     (戻って来て)ハチベエちゃんって、安藤さんの事好きなの?

ハチベエ      え?

モーちゃん     だっていっつも安藤さんのことばっかり喋ってるから。安藤さんもハチベエちゃんにだけは特別きついんだよね。え? 両想い?

ハチベエ      ないないないない。死んでもない! ほら。掃除しろ。

ハカセ        はあ~。悩みがない人はうらやましいな。

ハチベエ      ハカセ。本読んでねえで掃除しろ。

ハカセ        これ本じゃなくて教科書。

ハチベエ      そんなのどっちでもいいからよ。

ハカセ        問題。憲法23条、学問の××はこれを保障する。××とは何?

ハチベエ      なんだよ急に。

ハカセ        今日のテストに出てたでしょ。答えは?

ハチベエ      知りましぇ~ん!

ハカセ        君達、今日のテスト何点?

ハチベエ      58点。

モーちゃん     60点。

ハカセ        悩みがない人はうらやましいな。

ハチベエ      ちょい待て。お前は何点だったんだよ。

ハカセ        え?

ハチベエ      言え!

ハカセ        ・・・45点。

ハチベエ      お前が一番悪いじゃねえか。

ハカセ        だからこうやって復習してるんだろ。

モーちゃん     ハカセちゃんは勉強家なのにどうして成績あがらないんだろうね。

ハチベエ      テストに関係ねえ勉強ばっかしてるからだろ?なんだっけ?あのだせえ名前の・・・ハラハラ実験教室だっけ?

ハカセ        ワクワク実験教室! でも、母さんがもう行っちゃいけないって。テスト勉強しろって。

モーちゃん     ・・・

ハチベエ      おいモーちゃん。

モーちゃん     え?

ハチベエ      てやー!(ほうきを振り回す)

モーちゃん     わっわっ、あぶないよ。やめてよ。

ハチベエ      はっはっは、かかってこい!

モーちゃん     もう!

 

二人、チャンバラを始める。

 

ハチベエ      てやー!

モーちゃん     うわー!

 

よけるモーちゃん。ハチベエ、勢いあまって後ろの扉を強打。

鍵が開く音。「ガチャリ」。

 

ハチベエとモーちゃん  あ。

ハカセ        ここって。あの開かずの扉だよね。

 

扉が開く。「ぎい~」

 

ハカセ        開かずの扉。別名四次元の入り口。

ハチベエ      ここに入って、帰って来なかったっていう子供の話だろ…面白そうじゃありませんか。

モーちゃん     ちょっとやめようよ!先生もここには近づくなって言ってたじゃない!

ハカセ        モーちゃん、この21世紀にそんなことあるわけないだろ。僕らがその種明かしをしてやろうじゃないか。

 

ハチベエとハカセ、中に入る。取り残されるモーちゃん。

 

モーちゃん     待ってよー。

 

 

モーちゃんも後を追いかける。鉄扉が「ガシャン」と閉まる。暗転。

 

3地下倉庫


「カッカッカッカ…」という時計の音。

うっすらと明かりがつくとバラバラの時間を指した二つの柱時計と布をかぶった何かが見

える。

懐中電灯を持ったハカセを先頭に三人組登場。

 

ハチベエ      用意いいな、ハカセ。

ハカセ        自家発電式だからね。光量は心もとないけど…

モーちゃん     ♪(流行歌を歌っている)♪

ハチベエ      し!

 

探索を続ける三人組。時計の音「ボーンボーン」

おびえるモーちゃん。

ハカセ、布をかぶった何かを発見。

 

ハカセ        これ!

 

ハチベエ、おそるおそる布を取る。鏡があらわれる。

 

ハチベエ      鏡?

ハカセ        ずいぶん古そうだね。

 

ハカセ、懐中電灯を鏡に向ける。反射する鏡。あやしげな音が響き渡る。

 

モーちゃん     ねえねえ!なにこの音?

 

時計の針が逆回転を始める。

 

ハカセ        時計が!

 

光が立ちこめる。

 

ハチベエ      やべえよ!

ハカセ        逃げろ!

モーちゃん     待って!

ハチベエ      バカ、離せ。

 

不思議な力が三人を宙に持ち上げる。

 

モーちゃん     ハチベエちゃん~

ハチベエ      ハカセ~

ハカセ        モーちゃん~

三人組        うわあー!

 

宙に浮かんで回転する三人組。

 

4暗闇


落下する三人組。

真っ暗な場所。

 

三人組        あいて!(口々に)

モーちゃん     目が回る。

ハチベエ      大丈夫か。

ハカセ        眼鏡、僕の眼鏡が! あ、かけてた。

 

風の音。

 

ハチベエ      え? 風?

モーちゃん     ここ、どこ?

ハカセ        どこって体育館でしょ。

ハチベエ      戻ろうぜ。

 

その時、突然「ピー!」という呼子の音。

無数の提灯が三人組を取り囲む。

 

三人組        (口々に)え? なになになに?

声            御用だ! 御用だ! 御用だ! 御用だ! 御用だ! 御用だ! 御用だ~!

 

「ガシャン」という鍵が閉まる音。暗転。

 

5番屋


明かりつくとそこは番屋。

縄で縛られた三人組の姿。

 

三人組        え?

モーちゃん     何これ。どうなってるの?

ハチベエ      知るかよ。

 

三人組、縄を取ろうとするが、取れない。

そこに同心の佐竹左門と千次が登場。

 

千次          お。気がついたみたいです。

佐竹          こりゃたしかに妙なナリしてやがんな。手前ら一体何者だ? どっから来た?

 

顔を見合わせる三人組。

 

ハチベエ      はははは。なあんだ。こりゃ夢だよ。その証拠に・・・

 

ハチベエ、モーちゃんに頭突きする。

 

モーちゃん     イタ! なにすんの?

ハチベエ      あれ? 夢だから痛くねえはずなんだけど。

ハカセ        三人同時に同じ夢を見るわけないだろ?

ハチベエ      そっか。じゃあこの人たちは?

千次          勝手にしゃべるな! こちらのお方をお方をどなたと心得る? 南町奉行所定町廻り同心佐竹左門様なるぞ!

 

佐竹、千次に目配せをする。

千次、モーちゃんの縄をといて上着の「smile」の文字を見えるようにする。

 

佐竹          この着物の文字は異国人の文字だろうが。こんなモン、いってえどこで手に入れた?

千次          てめえら異国人か?

モーちゃん     違います。日本人です。アイアムジャパニーズ!

佐竹          ・・・どうやらとんでもねえガキを捕まえちまったようだな。

千次          こいつなんか持ってます。

 

千次、ハカセのズボンから懐中電灯を取る。

 

千次          何だこりゃ。

 

千次、懐中電灯のスイッチをつける。明かりが点いて、佐竹の目に入る。

 

佐竹          うわっ!

千次          だ、旦那どうしたんです?

佐竹          目をやられた!

千次          え?

 

千次、わけもわからず懐中電灯を覗きむ。

 

千次          わあ! 異国人の妖術だ! 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…

 

突っ伏す二人。

 

ハカセ        モーちゃん今だ。縄!

 

モーちゃん、ハカセのなわをとく。

佐竹たち、態勢を立て直そうとすると、ハカセが懐中電灯で再び照らす。

 

ハカセ        早く!

モーちゃん     取れた!

ハチベエ      逃げろ!

 

逃げる三人組。

 

佐竹          しまった!

千次          南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…

 

佐竹、千次を蹴る。

 

千次          いて!

佐竹          逃げたぞ。早く追え!

千次          へい!

 

千次、佐竹、あとを追う。

舞台転換。

 

6江戸・町外れ


水桶や屋台のある風景。

三人組、息を切らしながら登場。

 

ハチベエ      一体全体どうなってんだよ。

千次の声      待てー

モーちゃん     もうダメ…

ハチベエ      かくれろ!

 

ハチベエとハカセは屋台の後ろに、モーちゃんは水桶の後ろに隠れる。

千次が登場。三人組には気がつかず走り去る。

続いて佐竹が登場。佐竹も気がつかず行こうとするが、ふと足を止めモーちゃんの所へ…

その佐竹の後ろからハチベエとハカセが不意打ちで佐竹を取り押さえる。

 

ハチベエ      やー!

ハカセ        えい!

佐竹          そっちにもいやがったか! 離せ!

ハチベエ      モーちゃん! 今だ! ぶっとばせー!

モーちゃん     うわ~!

 

モーちゃん、逃げる。

 

ハチベエとハカセ      モーちゃん!

佐竹          ふん!

 

佐竹、二人を払い、刀を抜く。

 

ハカセ        はは。にせものですよね? よく出来てるなあ。

佐竹          せい!

 

水桶が一刀両断される。

 

ハカセ        真剣!(気絶)

 

佐竹はハチベエにせまる。千次も戻ってきてハチベエを取り押さえる。

その時、歌が聞こえる。♪闇の夜に吉原ばかり月夜かな~♪

平賀源内、ひょうたん片手に千鳥足で登場。

 

源内          お! こりゃ佐竹さんじゃありませんか。

佐竹          どうも、源内・・・先生。

源内          おやおや、あんたに先生と呼ばれるとはこのあたしも偉くなったもんだ。ところで、子ども相手にずいぶん大げさだねえ。

佐竹          こいつらには異国人の疑いがあってそれで取調べをしているんですよ。

源内          異国人? ははは。こんなに鼻の低い異国人があるもんか。実はこの子達はあたしん所で洋学の勉強をしてる子供たちなんだよ。家を飛び出したから追いかけてきたんだが、お騒がせしちまったようだな。ほれ、けえるぞ。

千次          でたらめ言ってんじゃねえ! こいつらはさっきまで番屋にいたんだぞ! その証拠にこいつの懐には・・・

 

千次、ハカセのポケットを探るが、何も出てこない。

 

千次          ありゃ?

源内          何やってんだい?

佐竹          ちっ、ひきあげるぞ。

千次          旦那、でも・・・

佐竹          きっとどっかにほっぽり出しやがったのさ。先生。またな。

 

佐竹と千次退場。

 

源内          行ったぜ。

ハチベエ      あの、どうもありがとうございます。

源内          いやあ、驚えた。こりゃ西洋でいうところのシャッポじゃねえか。それにこの妙なナリ。あんた達、こんなもん一体どこで手に入れなすった? ここじゃなんだな。どうだい?うちで話聞かせてくんねえか。この平賀源内。面白そうなことには首をつっこまねえでいられねえ性分なんだ。

 

ハカセが気絶状態から目を覚ます。

 

ハカセ        平賀源内!? あの・・・平賀源内なんですか?

源内          おうよ。

ハカセ        じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ、今って何年ですか?

源内          何だよ落ちつけよ。何年だあ? 今は安永八年じゃねえか。

ハカセ        安永八年!

ハチベエ      なんだよそれ。

ハカセ        ハチベエ君、モーちゃん、驚かないで聞いてね。ここ、江戸時代だよ。

ハチベエとモーちゃん  エドジダイ!?

 

突然所変わって越後屋前の活気ある風景。

語り手登場。

 

7江戸


語り手  さあ大変だ。三人組は、不思議な鏡の力で江戸時代にタイムスリップしてしまいました。安永八年とは、1779年。長い江戸時代の真ん中を少し過ぎた辺りの時代です。当時の江戸は、世界でも有数の巨大都市でした。人口は百万人も住んでいたと言われているんですよ。見て下さいこの賑わい。お、向こうから三人組と三人組を助けてくれたお侍さんが歩いてきましたよ。あの人「平賀源内」という名前でしたね。一体どんな人なんでしょう。この先に源内さんのお宅があるようです。さ、ついて行ってみましょう。

 

語り手、退場。舞台転換。

 

8源内宅


部屋の壁には婦人が描かれた西洋画がかけられている。

源内と三人組。

 

源内          するってえと、おめえさんたちは200年先の未来からやって来たって、言いなさるのかい?

ハカセ        はい。

源内          ほえ~、はあ~、ふ~ん・・・たしかに、アンタら珍しい着物着てるもんなあ。

ハカセ        信じてくれるんですか?

ハチベエ      話し早えー

源内          ちょいとあんたらここで待っててくれ。

 

源内、部屋を出て行く。

 

モーちゃん     え? 信じてくれたの?

ハカセ        平賀源内といえばこの時代を代表する科学者だからね。もしかしたら思ったけど。

ハチベエ      科学者? あのおっさんが?

 

その時、西洋画の婦人の目が動く。

 

モーちゃん     え?

 

目が戻る。

 

ハチベエ      どうした?

モーちゃん     今、目が動かなかった?

ハチベエ      目? (絵を見て)なんだこのおばさん。外人か?

 

婦人の眉尻があがる。続いて口を開いて、

 

婦人の声      おばさんとはわらわのことかえ?

モーちゃん     喋った!

婦人の声      聞きましたぞ。200年先の未来からやってきたなどと、くだらない嘘をつきおって。嘘つきは許すまいぞ! お~ほっほっほっほ! お~っほっほっほっほ! お~ほっほっほっほ!

 

婦人の絵は、目、口を動かしながらガタガタと揺れる。そして勢い余ってはずれる。

 

婦人の声      あれ?

 

障子を開けて源内が出てくる。

 

源内          いけね。やりすぎちまった。(婦人の声色で)びっくりしたかえ? はははははははは!

ハチベエ      (ハカセを呼んで)このおっさんのどこが科学者なんだよ。

ハカセ        随分変わった人だったとは聞いてたけど…

源内          アンタら、乞食だろ?

ハチベエ      え?

源内          どこで手に入れたか知らねえが、異国の衣装に身をくるんで夢物語を聞かせてお代を頂戴しようってわけだ。

ハチベエ      は? 違いますよ。

源内          相手が悪かったな。人を驚かせることにかけちゃ、この平賀源内の右に出るものはいねえ。それ!

 

源内、エレキテルを出す。

 

ハカセ        エレキテルだ!

源内          さあさ御立合い御立合い! これよりご覧入れますのは、いなづまの理をもって考えだされた南蛮渡来のエレキテル。千里万里の船旅で、見るも無残な姿に変わり果てたのこの品を、この平賀源内が見事復元いたしました。こちらの取っ手をぐるぐる回すと箱の中には雷(いかずち)が。さあお試しあれ。

 

ハチベエ、エレキテルに触れる。火花が出る。

 

ハチベエ      あち! なんだよこれ。

源内          エレキの力で病気はおろか、頭も良くなります。

ハチベエ      え? マジ?

ハカセ        そんなわけないだろ。これはただの静電気を起こす機械だよ。

源内          ほう。アンタは驚かないのかい。

ハカセ        僕たちは未来から来たんですよ。静電気が何ですか。見てください。これが本物の電気です。

 

ハカセ、ポケットから懐中電灯を出そうとするが見つからない。

 

ハチベエ      何やってんだよ?

ハカセ        おかしいな。懐中電灯がない。走ってる時、落としちゃったのかなあ。

源内          もういいかい。あたしゃこれからこのエレキテルをお奉行様にお見せしに行かなくちゃいけねえんだ。おめえさん達どうする? これだけ達者な嘘がつけるようなら、役人に捕まりさえしなけりゃ心配ねえようだが。

ハチベエ      いや、それは…

 

三人組、顔を見合わせる。

 

源内          仕様がねえなあ。あたしも夢物語は嫌いじゃねえし、行く当てがねえんなら、しばらく家にいな。じゃあな。(退場)

 

語り手、登場。

 

語り手        こうして、三人組は、源内さんの家にお世話になることになりました。さて、ここで源内さんについてご紹介いたしましょう。

 

語り手、巻物を広げる。そこには、源内の肖像画。

 

語り手        平賀源内とは、江戸時代を代表する天才発明家です。有名な発明品はエレキテル。さっきの機械ですね。その他にも「寒熱昇降器」と呼ばれた温度計や、「量程器」と呼ばれた万歩計、「火完布」という燃えない布に、「平線儀」と呼ばれた測量器具、源内さんは、様々なものを発明しています。その活躍は発明だけにとどまらず、人形劇の物語を書いたり、日本初の西洋画を描いたり、山を掘って金銀銅を発掘したり、「土用丑の日には鰻を食べよう」という、今でいうコピーライターのような仕事もしていました。何でも出来る、やっちゃう人だったんですね。さて、ここは、源内宅お風呂場。

 

語り手が巻物を下ろすとそこはお風呂場。

 

9風呂


あぶくの音。お湯があふれて三人組が顔を出す。

 

三人組        ぶは~。気持ちいい~

ハカセ        道具がないと自分たちが未来から来たって事を証明できないなんて、人類の進歩って何だろうなあ。

ハチベエ      なに悟ってんだよ。(と、お湯をかける)

ハカセ        ちょ! めがねにかかる!

ハチベエ      ったく。うん? あっちー!(と、飛び上がる)あちちちち!

声(おしの)   ごめんなさい! 熱すぎました?

 

おしの登場。このおしの、安藤にそっくりである。

 

ハチベエ      え? …安藤?

 

特殊効果。おしのが安藤と一度入れ替わる。

 

おしの        え?(とハチベエのあらわな下半身を見る)きゃー!

ハチベエ      安藤、お前も江戸時代に来ちゃったのか?

おしの        (もう一度下半身を見る)きゃー!(顔を背ける)

ハチベエ      おい! こっち見ろよ。

ハカセ        ハチベエくん! 前! 前!

ハチベエ      え? (自分が裸である事に気がつき)うお! (と風呂に戻る)

おしの        私、おしのです。

ハチベエ      おしの?

おしの        先生のお手伝いをしております。みなさんのお着替えは、畳んでおきましたので、あの、失礼いたします! …おしの、見ちまった。きゃ。

 

おしの、退場。

 

ハカセ        安藤さんに瓜二つ…

ハチベエ      可愛い・・・決めた! 明日は江戸を見物だ。おしのちゃんも誘ってよ。

ハカセ        どうしたの突然。

ハチベエ      せっかく江戸時代に来たんだ。エンジョイしよーぜ。

ハカセ        君、事の重大さを理解してる?

ハチベエ      じゃ、お前は留守番してろ。モーちゃんお前は行くよな?

 

その時、大きなおなかの音が鳴る。

 

ハチベエ      え? なんの音?

モーちゃん     僕のお腹が鳴ったんだ。僕、お家に帰りたい。お母さんのご飯が食べたい。ハンバーグ。エビフライ。カレーライス。(泣く)

 

語り手、登場。

 

語り手        一方その頃。源内さんは、奉行所でお奉行様からお呼び出しを受けていました。

 

太鼓の音で源内が舞台中央に登場し、平伏する。隣にはエレキテル。

語り手、町奉行になって、

 

町奉行        源内。おもてをあげい。

源内          はっ!(顔を上げる)

町奉行        そのエレキテルなるもの、いったい何じゃ?

源内          エレキの道理を申しますれば、全宇宙をひっくるめての大議論になりますが故、一朝一夕…

町奉行        簡潔に申せ。エレキとは何じゃ?

源内          それが、実はまだよくわかっていないものでして・・・

町奉行        おぬしは、よく分からぬものを見世物にしているのか?

源内          今はそうですが、この平賀源内、いつかきっとエレキの原理を解明し、世のためになる発明をしてみせます。

町奉行        ならぬ!

源内          え?

町奉行        『新規法度。諸道具新しく作ること固く差し止める。』発明禁止の決まりを忘れたか。

源内          そんなお奉行様、以前は私の発明品を楽しみにしてくれていたではありませんか。

町奉行        黙れ。この俺の料簡で今回はお咎めなしとしてやったのだ。しかし、今後は発明の一切を許さぬ。覚えておけい!

源内          お奉行様!

 

語り手退場。佐竹登場。

 

佐竹          ち。おとがめなしか。

源内          佐竹。もしやお前が。

佐竹          知らねえなあ。

 

佐竹退場。

太鼓の音。舞台転換。源内宅へ。

 

10源内宅


ハチベエの声   せえ~の!

 

三人組、着物姿で登場。

 

三人組        うわあ。(などと口々に着物姿の自分たちを見ている)

ハチベエ      (おもむろに刀を出し)しゃっきーん! すげえだろ。本物だぜ~。やー!

モーちゃん     わあ!

ハチベエ      はははは。冗談ですよ冗談。

モーちゃん     危ないよもう!

ハカセ        ハチベエ君。モーちゃん。絶対元の時代に戻ろうね。

ハチベエとモーちゃん  おう!(うん!)

ハカセ        よし!(と言ってトイレへ)

ハチベエ      どこ行くんだ?

ハカセ        トイレ。考えをまとめてくる。

ハチベエ      はあ?

 

舞台中央にトイレに入っているハカセの姿が現れる。

 

ハカセ        (モノローグ)僕たちがタイムスリップした事と、あの鏡が関係してるのは間違いない。あの鏡は、僕が懐中電灯の光を当てたらおかしくなったんだ。鏡と懐中電灯。この二つを見つけ出して同じ事をすれば、元の時代に戻れるかも知れない。はあ~、ウンチの臭いをかぐと、考え事がはかどるなあ。

 

トイレ姿のハカセ、引っ込む。

ハチベエがトイレの戸にノックしている。

 

ハチベエ      ハカセ! 早く出て来い!

ハカセ        (出て来る)おまたせ。

ハチベエ      くさ。

ハカセ        江戸時代のトイレは流せないからね。

ハチベエ      まじ?

ハカセ        おかげで考えがまとまったよ。

モーちゃん     ハカセちゃん、僕たち何をすればいいの?

ハカセ        鏡と懐中電灯を探し出すんだよ。

ハチベエ      お。探検か。

モーちゃん     外に行くの? またつかまっちゃう。

ハチベエ      大丈夫だろ。この格好なら。

モーちゃん     でも、そんな簡単に見つからないと思うし。

ハカセ        確かにやみくもに探したって駄目だろうね。そこで源内さんの登場さ。源内さんは、有名人だから、顔が広いと思うんだ。源内さんのネットワークを使わせてもらえれば、なんとかなるかも知れない。

ハチベエ      でもあのおっさん協力してくれっかなあ。

ハカセ        僕たちのいう事全然信じてないからね。だからまず、源内さんに僕たちが未来から来たことを信じてもらわなくちゃいけない。

モーちゃん     未来から来たことを信じてもらう・・・あ! あ!

 

モーちゃん、退場。

 

ハチベエ             なんだあいつ。

 

ハカセ、思案している。その時、

 

おしの(声)   きゃー。先生! いけません!

 

おしの、エレキテルを持って登場。続いてトンカチを持った源内。

 

おしの        みなさんこれを!(エレキテルを渡す)

源内          (トンカチでエレキテルに殴り掛かろうとする)

おしの        (制止して)いけません! 苦労してこしらえたものではございませんか。

 

ハチベエとハカセ、おしのに加勢して源内を制止する。

 

源内          こんなもんはもういらねえんだ。離しなさい。離せ!

おしの        いけません!

源内、引き離されて我に返る。

 

おしの        一体何があったのございますか?

源内          へっ、新規法度だとよ。おしのちゃん、悲しいねえ。人間、生まれてくる時代は選べねえんだもんなあ。

おしの        先生…

源内          今夜は遅くなるぜ。

 

源内退場。

 

おしの                先生、奉行所でお咎めを受けてしまったようで。

声(源内)         畜生!

 

おしの、お退場。

 

ハチベエ      こりゃ完全に俺達の話聞いてもらう雰囲気じゃねえな。

ハカセ        うん・・・

 

モーちゃん登場。

 

モーちゃん         どうしたの?

ハチベエ             どうしたのじゃねえよ。お前どこ行ってたんだ。

モーちゃん     あ、これ。

 

モーちゃん、ポテトチップスの袋を出す。

 

ハチベエ             ポテトチップス!

モーちゃん         体育館でゴミ箱に捨てたら先生は、僕を疑うんじゃないかと思って、ズボンのポケットに入れてたの。ハカセちゃん。これを源内さんに見せたら僕たちが未来から来たって事、信じてくれないかなあ。

ハチベエ             お!(見る)

ハカセ                う~ん・・・確かにこういう素材は、この時代にはないものだけど、これを持ってるだけで僕たちの事信じてくれるかなあ。また異国の物を拾ってきたんだろうって言われたら終わりだし。

ハチベエ             ダメか。捨てて来い。

モーちゃん         あの・・・江戸時代って燃えないゴミどうやって捨てるの?

ハチベエ             知るか。

ハカセ                ちょっと待って。これってもしかして・・・ねえ。これをそのまま見せてもダメかもしれないけど、これが空を飛べば源内さんどう思うかな?

ハチベエ      空を飛ぶ?

ハカセ        よし! ワクワク実験教室でやったことが役に立つぞ!

 

突然軽やかな3分クッキングのような音楽。

着物姿のハカセが、現代の服を着たハカセと入れ替わる。

続いて語り手登場。

 

11ワクワク実験教室


語り手        身近なアイテムで大実験。ワクワク実験教室の時間です。今日使うアイテムはこれ。ゴミ袋。このゴミ袋を使ってなんと熱気球を作りましょう。まずは木の板に釘をさして、そこにロウソクをたてます。そして筒をかぶせたら中のろうそくに火をつけます。さてこれ、さっきのゴミ袋に紙の重りをつけたものです。これを筒の上にかぶせると・・・ふくらんできましたね。この中に熱が溜まっているんです。空気は温めると軽くなる性質があります。これを浮力といいます。だから手を離すと・・・

 

ゴミ袋が宙を飛ぶ。熱心にメモを取るハカセ。

 

語り手        大成功!これが熱気球の秘密です。身近なアイテムで大実験。ワクワク実験教室の時間でした。

 

音楽終わり。

 

語り手        ハカセは、ゴミ袋の代わりにポテトチップスの袋を使いました。そして出来たのが・・・

声(三人組)   出来た!

 

緞帳開いて、源内宅。

気球が形作られている。

 

モーちゃん     気球を作っちゃうなんて、さすがハカセちゃん。

ハカセ        モーちゃんがポテトチップスの袋を捨てないで持って来てくれたおかげさ。

ハチベエ      よ~し! 人類初熱気球の飛行実験だ。

三人組        えいえいおー!

 

音楽とともに源内宅のセットが割れ、草原の景色に早変わり。

 

12草原


ハチベエ      お~い源内さん! こっちこっち! もう早く!

 

源内登場。酔っぱらっている。

 

源内          袋が空を飛ぶって? んなこと出来るわけねえだろ?

ハチベエ      やってみなきゃわかんないでしょ。ハカセ。

ハカセ        うん。(火をつける)

源内          なんだい? 火を使うのかい? 風はどこから送るんだい?

ハカセ        空を飛ぶのに風はいりませんよ。さ。熱がたまるぞ。

ハチベエ      あ!

 

気球が浮かんでいく。

語り手、それに合わせてギターを演奏する。

 

三人組        やったー!

源内          どういうことだこれは。ありゃどうして浮かび上がったんだ?

ハカセ        空気は暖めると軽くなる性質があるんです。その暖まった空気を溜め込んで浮力にしたんです。

源内          フリョク・・・あんた達、いったい何者なんだ?

ハカセ        だから言ったでしょ。僕達は200年先の未来から来たって!

源内          未来人! そんな馬鹿な…しかし、こいつは確かに空を飛んでいる。

ハカセ        僕達は元の世界に戻りたいんです。源内さん、力を貸してください!

源内          こいつぁすげえ! あんた達の話もっと聞かせてくれ!

三人組        やったー!

 

語り手による弾き語り。その中で三人組は、源内に話をする。頷きながら聞く源内。(セリフはなし)。

 

語り手        『いま始まる。僕らのストーリー

何もないここから

始まるぜ 始めるぜ』

 

源内          早速家に帰って作戦会議だ!

三人組        おー!

 

源内と三人組、退場。

すると、その様子を伺っていた千次と佐竹が登場。

佐竹は何やら千次に指示をし、千次は源内たちの去ったほうへ走っていく。

緞帳閉じる。

 

語り手        ただいまより10分間の休憩でございます。なおすでに江戸時代に入っておりますのでブザーはなりません。代わりに太鼓と笛が鳴りますので、太鼓と笛の音が聞こえたらお席についてお待ちください。それでは10分間の休憩です。

 

休憩中は江戸の雑踏の音が流れている。売り物の声など情緒豊かな様子。

残り3分位のところで太鼓や鳴り物の音が入り休憩時間の終わりをつげる。

語り手、黒子姿で登場。以下文楽の口上の如く。

 

語り手        とざいと~ざい。これよりご覧いれますのはひとみ座通し狂言『ズッコケ時間漂流記』第二幕。まずは『平賀源内お便所の場』より。それでは、はじまりとざいと~ざい。

 

拍子木。便所で思案する源内の姿。

 

源内          あの子達の話では、二百年先の未来では、異国との交易はさかんに行われ、人の行き来も自由だというじゃないか。あたしゃ死ぬまでに一度は、ヨーロッパを見てみたいと思っていたが、ふふふ。もっと見てみたいものが出来ちまったよ。

 

便所の源内退場。緞帳開いて源内宅。

やきもきしているハチベエ達の姿。

 

13源内宅


ハチベエ      (ノックして)源内さん。早く出て来てよ。源内さん。

源内          (出て来る)おまたせ。

ハチベエ      くっせ。

源内          あたしゃウンチの臭いを嗅ぎながら考え事をするのが大好きでね。

ハカセ        僕もです。!

源内          そりゃ奇遇だねえ。ははははは。

ハチベエ      そんなことはいいから早く懐中電灯と鏡を探しに行きましょうよ。

源内          それがいかなくてもいいんだなあ。

ハチベエ      え?

声(飛脚)     せんせ~い!

源内          ほら来た。

 

飛脚が登場。

 

飛脚          お待ちどさん。お目当ての品はこれかい?

 

飛脚、懐中電灯を出す。

 

ハカセ        懐中電灯!

源内          な。

飛脚          もう一個の品物も届いてるぜ。

おしの        (鏡を持って登場)せんせい~。何ですかこれ。

モーちゃん     鏡だ!

ハカセ        こんなに早く・・・

源内          あたしゃ、敵も多いがその分味方も多いのさ。熊さん、早かったねえ。

飛脚          あたぼうよ。江戸中の飛脚に声かけて、神田界隈をしらみつぶしに探し出したんだからな。(懐中電灯を見て)時に先生、こりゃいったい何だい?

源内          熊さん、すまねえが、このこたあ、秘密にしておいてくんねえか。

飛脚          またなんかおっ始めよってんだろ。

源内          分かるかい?

飛脚          分かるさ。あっしら先生のやることが楽しみでしょうがねえんだ。何かあったらいつでも言ってくれよ。

 

飛脚、退場。

 

源内          さあハカセさん。そのかいちゅう何とかってので鏡に光を当ててみな。

ハカセ        はい! ・・・あれ? つかない。

ハチベエ      どうした?

ハカセ        壊れてる。

モーちゃん     え?

ハカセ        あ! モーターだ!

モーちゃん     ええ? ハカセちゃん直せるよね?

ハカセ        え? いや、これはちょっと・・・

ハチベエ      ハカセ! お前のあだ名にかけて何とかしろ!

ハカセ        無茶言うなよ。この時代には、パーツがないんだよ。

 

源内、懐中電灯を取り、分解を始める。

 

源内          これは鉄を細くして巻きつけてある。これは・・・磁石か。で、こうなって・・・なるほど! これがエレキか!

三人組        え?

語り手        さすが、天才平賀源内。ここに歴史的発見がなされました!

 

語り手のドラムロールとともに新エレキテルの設計図が現れる。

 

源内          これが新エレキテルだ!

三人組        わあ!

源内          この取っ手を回せば歯車の仕掛けでこの巻になった銅線がぐるぐる回る。それからこっちは磁石だ。巻きになった銅線がこの磁石の上を回る時、そこに生まれる力がエレキ、つまり『電気』ってわけよ。

ハカセ        これは発電機だ。すごいぞ。エジソンより100年も早く電気を作るんだ!

ハチベエ      やっべ~

モーちゃん     源内さん。 この時代って発明が禁止されてるんでしょ。 大丈夫ですか?

源内          こいつは危ねえだろうなあ。だからこのことは、絶対秘密にしなくちゃいけねえ。

三人組        (息をのむ)

源内          ま、こいつが出来てあたしも二百年先の未来に逃げちまえばどうってこたあねえんだがな。

ハチベエ      え?

源内          いやいやいや。さ、やるかやらねえか・・・

 

 

三人組、目配せをして源内と手を合わせる。

 

三人組と源内   えいえいお~!

 

音楽。以後の製作シーンに重なる。

ハチベエとモーちゃんが木材を「えっほえっほ」と運んでくる。そしてハチベエがカンナに挑戦。削れない。

モーちゃんが交代するとスイスイと削りカスが舞う。

ハチベエ嫌になってノコギリ作業。しかしひっかかってしまう。

モーちゃんが来て交代。モーちゃん、ノコギリも器用に扱う。

そこにハカセと源内が登場。

歯車の装置をハカセが回してみる。クルクル回る装置。

源内が拍手する。照れるハカセ。

源内、設計図を前に次の打ち合わせをし、ハカセと源内は退場。

ハチベエが釘打ち作業に入ろうとしたその時・・・千次が屋根の上からその様子を伺っている。

 

モーちゃん     ねえハチベエちゃん。さっきから誰かに見られてるような気がしない?

ハチベエ      誰も見てねえよ。さぼってねえで仕事しろ!

 

再び作業風景。

ハチベエは間違って自分の親指を打ってしまう。腫れ上がる親指。

音楽終わり。

ハカセが登場。

 

ハカセ        ハチベエ君。これを買ってきてくれるかい?(と紙切れを渡す)

ハチベエ      菜種油、にんじん、大根、みそ、かつおぶし。なんだこれ。え? おつかい?

ハカセ        よろしく。

ハチベエ      ちょい待て。なんで俺なんだよ。モーちゃんに行かせろよ。

ハカセ        いや、モーちゃんはなかなかうまくやってるから。

ハチベエ      じゃあ何か?俺は役立たずだって言うのか?

ハカセ        誰もそんなことは言ってないけど。

ハチベエ      とにかく俺はおつかいなんかいかねえからな!

 

おしの登場。

 

おしの        おしのも一緒でございますが。

ハチベエ      行きましょう。いやあ、ちょっと仕事の方にのめり込んでたっていうか、ほら俺、一回集中しちゃうとなかなか自分ではやめられなくなっちゃう方だからさ。ガス抜きガス抜き。あ、ハカセ君にモー君。精を出すのはいいがたまには空を見ろよ。『発明とは1%の努力と99%のひらめき』っていうからなあ。いってきまーす。

 

ハチベエ、おしの退場。

 

ハカセ        『1%のひらめきと99%の努力』だよ。まるっきり反対じゃないか。

 

柝(き)が入り、転換。町中の雑踏音。

 

14屋台前


ハチベエとおしのが登場。

 

おしの        まあ。その安藤さんって娘さんは、私にそっくりなのでございますか?

ハチベエ      顔だけね。でも性格は大違い。そいつは、俺のこと「キッ」って睨んで、「フン!」って足踏んづけてくるような女だからね。

おしの        まあ。安藤さんってお侠(きゃん)なのね。

ハチベエ      おきゃん?

おしの        男勝りってこと。

ハチベエ      そりゃあもう、超おきゃんですよ。それに引き替え、おしのちゃんはあれだよね。

おしの        あれ?

ハチベエ      お、お花のような人だよね。

おしの        まあ、ハチベエさんったら。

ハチベエ      えへへへへへ・・・こっちきて。

 

ハチベエ、おしのを人のいない屋台前に連れていく。

 

ハチベエ      おしのちゃん。運命の赤い糸って信じる?

おしの        なんですかそれ。

ハチベエ      運命で結ばれた男と女は、赤い糸で繋がってるって話。俺とおしのちゃんってもしかして・・・

 

その時、突然後ろの屋台が開く。

 

主人          いらっしゃい!

ハチベエ      わあ! ちょっと、いきなりなんですか?

主人          おめえこそ、人の店の前で何してんだ。

ハチベエ      これからするとこだったんだよ。

主人          おしのちゃんじゃねえか。源内先生は元気かい?

おしの        もう元気も元気。大変です。

主人          え? って事は、源内さんまた何かおっ始めたのかい?

ハチベエ      あーダメダメ! これは秘密秘密。さ、いきましょ。

主人          なんだよ。教えてくれよ。いい男がケチケチしねえで。

ハチベエ      え? いい男?

主人          よく見りゃ誰もが振り向く男前。よっ! おしのちゃんにぴったり!

ハチベエ      もう! 調子いいんだから~

主人          俺にははっきり見えるぜ。二人の指に結ばれた赤い糸が。

ハチベエ      へへへ。教えちゃおっかなあ。

おしの        ハチベエさんダメですよ。

主人          頼むよ~

ハチベエ      おじさんだけだよ。絶対誰にも言わないでね。

主人          あたりきよ!

ハチベエ      (耳打ちする)

主人          ふむふむ・・・デンキ?・・・へえ~

 

語り手登場。

 

語り手        「口から出れば世間」。どんな秘密もひとたび口にすれば、たちまち世間に知れ渡ってしまう事を、12歳のハチベエは知る由もなかった。

 

様々な江戸の人々が登場。噂を伝達する。

 

大工          てえへんだ。てえへんだ。源内さんが今度はデンキを作ってるってよ!

花魁          デンキって何でござんすえ。

火消し        よく分かんねえけどよ。ピカピカ光るらしいぜ!

儒者          いかーん!!デンキを見たら目が潰れるぞよ!

みんな        大変だー!

 

語り手、瓦版売りに扮して

 

瓦版売り      号外! 号外! さあさあ、平賀源内デンキの妖術ピカピカピカ! と来たもんだ。なんでも江戸から夜がなくなるって話だよ。そんな話は古今東西聞いたためしがない! さあ号外! 号外!

 

などと言っている間に舞台上には佐竹の姿。

佐竹、瓦版を催促。

語り手、瓦版を手渡す。

瓦版を読む佐竹。

 

15源内宅


緞帳開くと源内宅。三人組の姿。瓦版を手にしている。

 

モーちゃん     「妖術との関連も疑わしいこの発明品には、奉行所も黙ってはいられないだろう。」

ハカセ        これ、君だね。

ハチベエ      …はい。

ハカセ        なんで喋っちゃったの?

ハチベエ      …すいません。

ハカセ        謝ってすむ問題?

ハチベエ      …いえ。

モーちゃん     ハカセちゃん、ハチベエちゃんも反省してるし…ね、ハチベエちゃん、もうしないよね?

ハチベエ      たかだか電球光らせるだけじゃねえか。

モーちゃん     え?

ハチベエ      や~めた! なんで俺が謝んなきゃいけねえんだよ。

ハカセ        あ! 開き直った。

ハチベエ      だって俺別に悪いことしてねえもん。

ハカセ        してるだろ? 秘密をばらしたんだから。

ハチベエ      なんでばらしちゃいけねえんだよ。

ハカセ        それは、この時代に新規法度って決まりがあるからだろ。

ハチベエ      だから、なんでそんな決まりがあるんだよ。電気が出来たって誰にも迷惑かけねえじゃねえか。むしろ便利でいい事じゃねえか。

ハカセ        そういう問題じゃないだろ?

ハチベエ      じゃ、どういう問題だよ。

ハカセ        もういいよ。君には何を教えても無駄なんだ。

ハチベエ      ちょっと待て。教えるってなんだよ?

 

ハチベエ、ハカセを殴る。

 

ハカセ        殴った。自分が悪いのに。

ハチベエ      おめえは、いっつも生意気なんだよ。

 

二人、もみくちゃの殴り合いになる。

 

モーちゃん     やめてー!

 

モーちゃん、二人を引き離す。

 

モーちゃん     こんな時にケンカしないでよ!

 

離れる二人。服を払ったりめがねを直したりしてばつの悪さを誤魔化している。

その時、モーちゃん、何かに気づく。

 

モーちゃん     あれ? 設計図がない!

ハカセ        え?

モーちゃん     源内さん、持ってった?

ハカセ        (首をふる)

モーちゃん     え!

 

慌てて、あたりを探るモーちゃんとハカセ。

ハカセが手ぬぐいを発見。

 

ハカセ        これ。あの岡っ引きの手拭だ。盗まれた! あいつら、設計図を証拠に源内さんを捕まえる気なんだ!

モーちゃん     そんな。

ハカセ        ほらみろ。君が軽率だからこんなことになったんだ。

ハチベエ      ・・・くそ~

 

ハチベエ、駆け出す。退場。

 

モーちゃん     ハチベエちゃんどこいくの?

ハチベエ(声) 設計図。取り返す!

モーちゃん     取り返すって、ハカセちゃん、どうしよう!

ハカセ        いや、そんなこと僕に言われても。

モーちゃん     ハチベエちゃん行っちゃったよ!

ハカセ        自業自得じゃないか。

モーちゃん     でも・・・行かなきゃ!

ハカセ        ・・・

モーちゃん     ハカセちゃん!

ハカセ        ・・・

モーちゃん     知らない!(退場)

ハカセ        くそ~

 

緞帳閉じる。

 

16町・はずれ


泣きながら走ってくるハチベエ。振り返るが、誰もいない。

太鼓の音。転換。

 

17奉行所前


捕り方が門番のように立っている。

千次が登場。捕り方に目配せする。

捕り方と千次、門の中へ退場。

ハチベエ、登場。様子を伺っている。

そこにモーちゃんが登場。

 

ハチベエ      モーちゃん! 来てくれたのか?

モーちゃん     (息切れ)ごめん・・・いま・・・しゃべれない。

ハチベエ      モーちゃん!(抱きつく)

 

二人は門に向かう。

そこにハカセが登場。

 

ハチベエ      ハカセ! お前も来てくれたのか?

ハカセ        (息切れ)君がいなくなったら・・・誰が僕より・・・テストで悪い点とってくれるのさ。ハチベエ は? テストの点はおめえの方が悪いだろ。

ハカセ        そうだっけ?

ハチベエ      どさくさにまぎれてごまかすんじゃねえ。

ハチベエとハカセ      (笑う)

モーちゃん     三人、揃ったね。

ハチベエとハカセ      (うなづく)

 

三人、奉行所を見つめる。おそるおそる中へ入る。

 

18奉行所


佐竹と捕り方、千次。

壁の掛け軸には『正義』の文字。

三人組は、佐竹達にばれないように現れて様子を伺っている。

 

佐竹          やっと証拠を手に入れた。この設計図を持って、夜四つの鐘を合図に源内宅に押し入る!

一同          おう!

佐竹          支度にかかれ。

一同          おう!

 

捕り方と千次、退場。

佐竹は残り、障子の前へ。障子に影が現れる。

かしこまる佐竹。

 

影            よくやった。お前は出世するぞ。

佐竹          ありがとうございます。・・・しかし…

影            どうした?

佐竹          この新エレキテルが本物ならば、明かりがつくという便利な代物。何ゆえ禁止するのでありましょうか?

影            馬鹿者。その便利さが曲者よ。便利な生活や新しい学問を得た庶民は、いつ何時お上への不義不満を申し立てるか分からんからな。その芽をつぶしておくのが我らが役目。正義の道よ。

佐竹          このことお奉行様は・・・

影            ほほ。町奉行の耳に入れるまでもなきこと。

佐竹          あなた様は一体?

影            ひかえい!

佐竹          はっ!

影            我の姿を見ることは相成らん。我は影なのだ。ほほほほ。源内をひっとらえい!

佐竹          はっ!

 

佐竹、退場。

三人組、部屋に忍び込んで設計図を取る。

行こうとするが、ハカセが突然掛け軸の『正義』の文字に落書きをする。

 

ハカセ        やあ~!

ハチベエ      なにやってんだ!

 

ハチベエとモーちゃん、ハカセを引きずるようにして退場。

 

影            曲者!

 

佐竹が戻ってきて落書きに気がつく。

 

佐竹          何だこれは・・・あ! ない! 設計図がない!

影            ナニ〜!

 

緞帳閉じる。

馬のいななきと共に騎乗姿の三人組(ミニチュア)が登場。

 

モーちゃん     え~? なんで馬!?

ハチベエ      細けえことは気にすんな。しっかりつかまれ~

ハカセとモーちゃん    うわああ!

ハチベエ      ハカセ! お前、さっき何書いてたんだ?

ハカセ        あいつらにぴったりの問題を出してやったのさ!

ハチベエ      問題?

 

緞帳開き、佐竹と影のやりとり。

 

佐竹          「憲法23条学問の××はこれを保障する。××とは何?」なんだこりゃ?

影            一体誰の仕業だ?

佐竹          ズッコケ三人組。

影            ズッコケだと! もはやまかりならん! 源内もろとも斬りすてい! さもなくばおのれの命もない!

佐竹          ははあ~!

 

緞帳閉じるとケコミ前に騎乗姿の三人組(等身大)が登場。

 

ハカセ        学問の自由はこれを保障する! 答えは自由だ! わかったか馬鹿野郎!

ハチベエ      ははは! そいつはよく覚えとかないとテストに出るぜ~

モーちゃん     落ちる~

 

三人組退場。

 

19道


おしのが立っている。手には風呂敷。

袖で馬の声が聞こえ、三人組が登場。

 

おしの        みなさん!

ハチベエ      おしのちゃん。

おしの        奉行所が動き出したって本当ですか?

ハチベエ      ごめん。今話してる暇ないんだ。

おしの        やっぱり。お別れの時なのですね。これ。(風呂敷を渡す)

ハチベエ      俺たちの服。

おしの        短い時間でございましたが、おしの、みなさんにお会いできて楽しゅうございました。

ハチベエ      おしのちゃん・・・一緒に行こう。

ハカセとモーちゃん    え?

ハカセ        ちょっとハチベエ君、何言ってんの?

ハチベエ      一人位いいだろ。

ハカセ        いいわけないでしょ。

おしの        運命の赤い糸! おしのは、運命の赤い糸で結ばれているのでございます!

ハチベエ      もう話はついてんの。さ、おしのちゃん行きましょう。

おしの        だから行けません!

ハチベエ      え? 今運命の赤い糸で結ばれてるって。

おしの        結ばれてます。熊さんと。

 

飛脚のくま登場。

 

熊さん        おしの。

おしの        おしの、ハチベエさんのお話を伺って、やっと自分の気持ちに正直になることが出来たのでございます。ありがとうございました。

ハチベエ      (茫然自失)

おしの        ハチベエさんの赤い糸は、きっと安藤さんと結ばれていますよ。思いを伝えてみてはいかがですか。

ハチベエ      (茫然自失)

モーちゃん     (ハチベエの代わりに)おしのちゃん、さようなら。

おしの        さようなら。

 

おしの達、退場。

鐘の音。

 

モーちゃん         鐘の音だ。

ハカセ                急ごう。

モーちゃん         (茫然自失のハチベエを促す)ハチベエちゃん!

 

三人組、退場。

 

20源内宅


緞帳開くと源内が新エレキテルの取っ手を持って構えている所。その横には鏡、

 

源内          早くしろ!

 

三人組、着替えた格好で登場。

 

ハカセ        お待たせしました。

源内          設計図なんてあいつらにくれてやりゃあ良かったんだ。

ハカセ        でも、そしたら源内さんが捕まっちゃうから。

源内          捕まらないよ。あたしもお前さん達と一緒に行くからね。

ハカセ        え?

源内          さあ行こう。未来へ。

ハカセとモーちゃん    ええ!?

 

戸を叩く音。

 

佐竹(声)     拙者組同心佐竹左門!

モーちゃん     来た!

 

源内、急いで取っ手を回す。

 

源内          くそ。思ったより重てえな。

ハカセ        早く!

佐竹(声)     市中見廻りの節、讃岐浪人平賀源内を新規法度を犯す怪敷物と認め、召捕りに仕った! すみやかに戸を開き、お縄を頂戴いたせ!

源内          畜生。こいつを一旦奥へ。

 

呼子(笛)の音が鳴り響き、さす股を構えた捕り物衆が入ってくる。

ハカセとモーちゃん新エレキテルを持って奥へ退場。刀を構えたハチベエが躍り出る。

 

ハチベエ      ちょうど暴れたい気分だったんだ! おりゃー!

捕り物衆      うわあ!・・・(平気)

ハチベエ      斬れない!

源内          子どもに真剣もたせられねえだろ。

ハチベエ      え? これにせもの? うわあー!(退却)

源内          どけハチベエ! ちぇぃ!

 

源内が気合たっぷりに取り方に挑むが、かわされて後ろから殴られる。気絶。

ハチベエ、気合いを入れ直し捕り方を殴る。

倒れる捕り方。

 

ハチベエ      要はぶっ叩きゃいいんだろ! ハカセ、源内さんを!

ハカセ        源内さん!

 

ハカセ、源内を連れて行く。

新たな捕り方登場。ハチベエと対峙。

ハチベエ、持ち前の運動神経で捕り方を倒す。

しかし、すぐに新たな捕り方が現れる。

そこにトンカチを持ったハカセが登場。

 

ハカセ        えい!

 

ハカセ、捕り方に突っ込んでいくが返り討ちに合う。

ハチベエ、気合を振り絞って捕り方をなんとか倒す。

そこに千次が登場。

 

ハチベエ      千次!

千次          へへへへ。

 

ハチベエと千次の一騎打ち。白熱戦。

 

ハチベエ      おりゃー!

千次          うわあ!

ハチベエ      参ったか!

千次          参った!

モーちゃんとハカセ    やったー!

千次          と見せかけて!(と、虚をついてハチベエを押さえる)ははは。召し取ったりー!

ハチベエ      卑怯者。

 

ハカセ、もう一度助けに来るが、捕り方に押さえ込まれる。

 

千次          はっはっはっは!

 

その時、モーちゃんが木材を振り回しながら登場。

 

モーちゃん     うわー!

 

木材が千次にクリーンヒットし、吹っ飛ぶ。

捕り方がモーちゃんを取り押さえにかかるが、モーちゃんは怪力で投げ飛ばす。

 

ハチベエ      すげえ。

モーちゃん     うわー!

 

モーちゃん、今度は新エレキテルを持ってきて回し始める。

猛烈な勢いで回り始めた新エレキテル。

光が点く。

 

千次          ひぃ! 妖術だー!

 

逃げ出す千次。袖口で斬られる音。

 

千次          うぎゃあ!だ、だんな?

 

倒れる千次を足蹴にして佐竹が登場。

 

ハカセ        佐竹!

ハチベエ      やあ~

 

飛びかかるハチベエ。しかし、呆気なくあしらわれる。

ハカセとモーちゃんも真剣の前に動けなくなる。

佐竹、新エレキテルに斬りかかる。

 

源内          やめろー!

佐竹          せい!

 

新エレキテル、一刀両断される。

 

三人組        ああ!

源内          私の夢が・・・

佐竹          これが正義だ! 分かったか源内!

源内          ちえーい!

 

狂気の源内、佐竹に斬りかかる。

二人もみ合いになって奥座敷へなだれ込む。

 

源内          きょえー!

佐竹(声)     うぎゃあ!

三人組        源内さん!

源内          来るな!…やっちまった。

 

その時、耳鳴りの様な音が聞こえ出す。

 

モーちゃん     この音!

ハチベエ      鏡が!

 

鏡が光り始める。不思議な音も大きくなる。

辺り一面に光が立ち込める。

 

源内          これが・・・

三人組        よっしゃー!(口々に)

 

三人組は急いで鏡に駆け寄る。

源内も行きかけるが、踵を返し鏡から離れる。

 

ハカセ        源内さん。

源内          あたしゃ一緒に行けねえよ。

ハカセ        さっき一緒に行くって。

源内          人を斬っちまったんだ。逃げるわけにはいかねえだろ。平賀源内、これでも武士のはしくれさ。

ハカセ        源内さん!

 

ハカセ、源内の元へ行こうとするがハチベエに押さえられる。

 

ハチベエ      ハカセダメだ!

ハカセ        源内さん!

源内          しけた面すんな。おめえさん達と会えてあたしゃ楽しかったぜ。

ハカセ        源内さん!

源内          今度は未来で大暴れしてくれよ。おさらば!

ハカセ        源内さん~

 

三人組、光に包まれる。

放送室の情景に変わる。

 

21放送室


安藤が作文を読み終えたところ。

 

安藤   今はリフティング11回しか出来ないけど夢を目指して頑張ります。」・・・素敵な夢ですね。頑張って下さい。これで朝の放送を終わります。

 

三人組、落ちる。

 

三人組        いて!(口々に)

安藤          きゃあ!

ハチベエ      おしのちゃん! 源内さんは?

モーちゃん     どうなったの?

ハカセ        源内さんは?

安藤          ちょっと・・・

ハチベエ      おしのちゃんってば!

安藤          …ちょっとアンタ、どこさわってんのよ?

 

安藤、ハチベエをぶつ。

 

ハチベエ      いってえ! え? 安藤?

安藤          当たり前でしょ! 授業始まるわよ。

 

安藤、退場。

 

ハカセ        ということは…

モーちゃん     帰ってきたんだ…

三人組        はあ~。

 

語り手登場。

 

語り手        こうして三人組はもとの世界に帰ってきた。源内さんはあの後どうなったのか? 三人はすぐに体育館へ向かったが、あの鏡は見つからなかった。放課後。ここは花山第二小学校の屋上。ハカセは図書室で歴史の本を借りてきた。

 

語り手、「ほたるの光」を演奏する。

 

22屋上


緞帳開くと屋上大時計の前の風景。

ハカセが本を読んでいる。

 

ハカセ        安永八年十一月二十一日、平賀源内は殺人事件をおこし、小伝馬町の牢屋に入れられる…

ハチベエ      それでどうなったんだ?

ハカセ        十二月十八日…牢屋の中で死んだって。

モーちゃん     死んだ? どうして?

ハカセ        死因はよく分かっていないって。病気の説もあるし、ご飯を食べなくなって死んだって説もあるみたい…

モーちゃん     そんな…

ハカセ        僕のせいだ。僕があの時源内さんを連れてきてたら・・・

ハチベエ      そんなことしてたら、お前も帰ってこれなかったかも知んねえだろ。仕様がなかったんだよ。

ハカセ        源内さん!(泣く)

ハチベエ      泣くなよ。お前が泣いたら、俺も泣いちゃうだろ。(泣く)

モーちゃん     源内さん!(泣く)

 

安藤登場。

 

安藤                    何やってんの?

ハチベエ             安藤。

安藤                    何で泣いてんの?

ハチベエ             泣いてねーよ。おい! 辛気くせーのはもうやめよーぜ。源内さん言ってたじゃないか。未来で大暴れしろって。そうだ。気球だよ。

ハカセ                気球?

ハチベエ             今旭橋のとこで気球飛ばしてんだよ。あれに乗せてもらわねーか?

ハカセ                いいね。

モーちゃん         行こう。

安藤                    ちょ、そんなの子どもだけで無理に決まってんでしょ。

ハカセ                安藤さん。それはやってみないと分かんないよ。

モーちゃん         ね!

 

三人組退場。

ハチベエが戻ってくる。

 

ハチベエ      安藤。お前もどうしてもって行きたいって言うなら、連れてってやってもいいぞ。

安藤          は? 行くわけないでしょ。

ハチベエ      だよな。(行きかけて立ち止まる)あ、そうだ。お前って、あれだよな。

安藤          何よ。

ハチベエ      おきゃんだよな。

安藤          おきゃん? 何よそれ。

ハチベエ      男勝りってこと。ははははは。

安藤          あんた、また殴られたいの?

ハチベエ      ほらおきゃん。でも・・・

安藤          でも何よ。

ハチベエ      意外と着物とか似合ったりして。

安藤          え?

ハチベエ      じゃあな!

 

ハチベエ退場。

 

安藤          ・・・ちょっとハチベエ待ちなさい! やっぱ私も行く!

 

安藤、退場。

その瞬間、大時計の針が「ガシャ」と動く。

語り手によってエンディングテーマ『はじまりのうた』が歌われる。


『いつの日か毎日を

きっと誰かが変えてくれる

そんな事夢見てた

 

やりたいことを我慢して

何にもせずに黙ってる

そんな僕にはあきあきさ

いちかばちかでやりたいんだ

 

今はじまる 僕らのストーリー

何もない ここから

始まるぜ 始めるぜ

 

ケンカした帰り道

夕焼け雲は空いっぱい

果てしなく続いてる

 

君の気持ちが見えなくて

僕は強がり言うけれど

本当は君が大好きさ

かけっこしようどこまでも

 

今はじまる 僕らのストーリー

何もない ここから

始まるぜ 始めるぜ』

 

音楽の中、三人組と安藤が乗った気球が客席上空を飛んでいく。                                                             おわり