『ぼくのふうせん』戯曲

言葉のない人形劇台本

※本作作品の著作権は著者に帰属します。上演をご希望の方は、有償・無償に関わらず西上寛樹(info@amano-jaku.com)までご連絡をお願いいたします。
また、縦書きのものをご覧になられたい方は、上記アドレスまでご一報ください。メールでお送りいたします。

人形劇団ひとみ座幼児劇場上演作品

ぼくのふうせん

                          作 西上寛樹

登場人物

  • 男の子
  • 兄弟
  • 屋上の夫人
  • 小型犬
  • ラジコンのヘリコプター
  • カモメ
  • 赤い風船
  • 青い風船
  • その他の風船

1 風船たち

 

舞台では風が吹いている。

やがて風がやんで二つの風船が現れる。

赤と青の風船は、まるで恋人同士のように戯れる。

しかし風が吹き出し、二つの風船は離れ離れになってしまう。

風がやんで舞台は公園になる。

 

 

2 公園

 

シーソーとブランコがある。

兄弟らしき二人がやって来てブランコをはじめる。

楽しそうな二人。

やがてあきてシーソーへ。

最初は均衡が取れないが、座る位置を直してシーソーを楽しむ。

 

そこに、男の子が登場。兄弟二人と目が合う。

男の子、目をそらしてブランコの元へ。ブランコをこぎだす。

兄弟二人は再びシーソー。

男の子は、二人の様子が気になってチラチラそちらを眺める。

再び目が合う両者。

慌てて目をそらす男の子。

兄弟はシーソーを下りる。兄は男の子の方にシーソーに乗るよう指し示す。

男の子、そちらを見ないようブランコに集中する。

兄弟は顔を見合わせる。そして走ってゆく。退場。

 

男の子は、ブランコを降りてシーソーにまたがる。

しかし、一人ではシーソーは動かない。地面を蹴って、跳ね上がるがすぐに落ちてしまう。

二、 三度繰り返す。

男の子、あきらめる。再びブランコへ。

その時、赤い風船が現れる。

風船は、ブランコをこぐ男の子の後ろへ。

男の子の揺れに合わせて風船も揺れる。

男の子、背後に気配を感じブランコを止める。そして振り向く。

風船は、男の子の死角に回り込む。

男の子は風船に気がつかない。

男の子、再びブランコ。しかしまた違和感を感じ振り向く。

風船は死角に回り込む。

男の子、再びブランコ。

揺れる風船。

男の子、今度はブランコをこぎながら仰ぎ見るようにして後ろを見る。

風船を発見する。

びっくりしてブランコから落ちてしまう男の子。

風船も驚いて飛んで行く。

離れて様子を伺う男の子と風船。

 

男の子、風船に向かって手招きする。

おそるおそる近づく風船。

風船は、男の子の元へ。男の子の頭上をゆっくりと旋回する。

男の子、風船の方を目で追いかけているが、やがて追いかけっこになる。

風船と男の子は公園の中を走り回る。

転ぶ男の子。

風船は立ち止まって男の子の元へ。

男の子、立ち上がって膝を払い「大丈夫」とアピールする。

風船、ひらりと旋回すると、男の子を誘うように紐を差し出す。

男の子、思わず紐を手に取る。

すると風船はふわふわと宙に浮かんでいく。

紐につかまった男の子の体も宙に浮かんでいく。

風船と男の子は、そのまま飛んで行く。退場。

 

 

3 屋上

 

家屋の屋上で洗濯物を干している夫人。

小型犬がやってきて夫人の足元を吠えながら走り回る。

犬は夫人にかまってもらいたくて夫人の足元でさかんに吠える。

夫人、犬を抱き上げ可愛がる。甘える犬。

夫人、犬を放して再び洗濯物を干す。

 

そこに風船と男の子がぷかぷか飛んでやってくる。

吠える犬。夫人の足元で吠えて異変を知らせる。

しかし夫人は、犬を相手にしないので男の子の存在に気づかない。

その夫人の前を通り過ぎていく男の子。

けたたましく吠える犬。

夫人は、犬の異変にやっと気づいて、犬が見ている方を見る。

飛んでいる男の子。

夫人、びっくりして後ずさり。その拍子に洗濯物がひっくり返る。

吠え続ける犬。

風船と男の子は飛んで行く。退場。

 

 

4 鉄塔

 

男の子と風船がぷかぷかと飛んでくる。

男の子、何か変な音が聞こえることに気がつく。

何かが回転しているような音。

やがて鉄塔が見えてくる。

その先端に小さなラジコンのヘリコプターが引っかかっている。

しきりに羽を回転させているが、機体の後部がひっかかって動けない。

男の子は、風船にラジコンの方を指さして示す。

風船はラジコンに横付けする。

男の子、ひっかかっているところをとってやる。

ラジコン、水を得た魚のように辺りを飛び回る。

ラジコン、戻ってきて風船の前でホバーリングし、機首をさげてお辞儀をする。

が、風船はラジコンに好意を持っていないのか反対の方に飛んでいく。

男の子はラジコンに手を振っている。

ラジコン、飛んでいく。お互い退場。

波の音が聞こえてくる。

 

 

5 海

 

舞台は突然海に変わる。

男の子が飛んでくる。

ゆっくりと浮遊していると、そこに一羽のカモメが登場。

男の子と並走する。

カモメは男の子と一緒に飛んでいるのを楽しむようにあっちに回ったりこっちに回ったりする。

男の子もその様子を楽しんでいる。

すると、カモメが二羽になる。

二羽のカモメは男の子の周りを飛びまわりながら遊ぶように飛んでいる。

男の子も風船も楽しそうに飛んでいる。

すると、今度は二羽のカモメが群れになる。

群れのカモメは男の子と風船を囲むようにして飛行する。

男の子と風船はカモメの群れに守られるようにして空を飛ぶ。

そしてカモメの群れは方向を変えていなくなる。

手を振る男の子。

 

その時、男の子のはるか後方に無数の風船が飛んでくるのが小さく見える。

男の子と風船は、振り向いてその様子を見ている 。

無数の風船はしばらくゆっくり浮遊していたが、やがて静止したかと思うと、風に飛ばされて空

に舞い上がって見えなくなる。

しばらくすると、別の風船の群れが飛んでくるのが見える。

この風船の群れも、風に飛ばされて見えなくなる。

 

男の子と風船は、その風船たちが飛ばされた場所に向かって飛んでいく。

そしてその場所でじっと風を待つ。

やがて一陣の風が吹き、男の子と風船は飛ばされていく。退場。

 

 

 

6 風船の世界

 

風がおさまると舞台は雲の上、風船の世界になっている。

そこでは無数の風船が虹のすべり台で遊んだり、雲のトランポリンで遊んだり、大きなパラソル

にぶら下がって、遊園地のアトラクションに乗った子どもたちのようにグルグル回って遊んだり

している。

そこに男の子が赤い風船とやってくる。

男の子はもう浮かんでいるわけではなく、雲の上を自分の足で歩いている。

男の子は、雲のトランポリンに乗ってみる。

しかし、男の子の体重では重すぎるのか風船たちがしているように飛び上がることが出来ない。

男の子は、あきらめて虹のすべり台の方に行く。

しかし、このすべり台の本当の楽しみ方は、すべり終わった反動で空に浮かび上がるところにあ

るらしく、すべり終わったらそのまま雲の上に落ちてしまう男の子にはつまらない。

男の子はパラソルの遊具に他の風船たちと一緒にぶら下がってみるが、男の子がぶら下がるとパ

ラソルは男の子の重さですっかり傾いてしまい、動かなくなってしまう。

男の子は、パラソルから離れる。

風船たちはパラソルを使ってグルグル回って遊ぶ。

つまらなさそうな男の子。

赤い風船はその間も男の子から離れることはなくずっと寄り添っている。

その時、すべり台の上に青い風船が現れる。

 

赤い風船は、青い風船の存在に気がついてそちらの方へ。

青い風船、すべり台を滑って赤い風船の元へ。

二つの風船は再会する。

そして、雲の上をダンス会場のようにして踊り出す。

踊りが終わると二つの風船はそのまま一緒に飛んで行く。退場。

突然の出来事についていくことが出来ない男の子。

周りではたくさんの風船たちが男の子に構うことなく遊び続けている。

男の子は寂しくなって泣き出してしまう。

 

そこに赤い風船と青い風船が戻ってくる。

男の子は、二つの風船を見上げる。

赤い風船と青い風船は紐を男の子に差し出す。

男の子はそのひもを取る。

二つの風船は男の子を乗せてゆっくりとお浮かび上がる。退場。

 

 

7 公園

 

冒頭の公園。

袖舞台に二つの風船に乗った男の子がゆっくりと降りてくる。

男の子は、公園の方に戻ろうとするが兄弟二人がやってきたので隠れるように袖舞台にとどま

る。

男の子、袖舞台の影からシーソーで遊ぶ兄弟を見ている。

赤い風船が男の子の顔を覗き込む。

見つめ合う男の子と赤い風船。

男の子は頷く。そして公園に出ていこうとするが、慌てて向き直り赤い風船をやさしく抱きしめ

る。

抱きしめ返す赤い風船。

男の子は、青い風船に手を振る。

紐を振って答える青い風船。

男の子は兄弟たちの元へ駆けていく。

 

男の子と目が合う兄弟。

兄がシーソーを下りて、男の子に弟の後ろに乗るよう促す。

兄は男の子が乗ったのを見届けると、反対側に乗ってバランスを取る。

シーソーで遊ぶ男の子と兄弟。

赤い風船と青い風船はその様子を見届けると、空に向かって飛んで行く。

 

シーソーで遊ぶ三人の遥か後方を、小さくなった二つの風船が飛んで行く。