※本作作品の著作権は著者に帰属します。上演をご希望の方は、有償・無償に関わらず西上寛樹(info@amano-jaku.com)までご連絡をお願いいたします。
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『カモとぼく』
2017年 人形劇団ひとみ座幼児劇場上演台本
作・西上寛樹
【登場人物】
- 雄太(6歳)
- お母さん
- 母ガモ
- カモの子どもたち
- 猫
- 猫の子どもたち
- 出会い
緞帳開くと、せせらぎ遊歩道の風景。
小岩の上にカモが一羽、座っている。
上手より、お母さんと雄太が登場。
雄太、カモに気が付く。お母さんは気が付かない。
雄太、座り込んでカモを見る。
お母さん、雄太が来ていないことに気がつき戻ってくる。
お母さん 何やってんの。
雄太 ・・・
お母さん 行こう。
雄太 ・・・
お母さん 雄ちゃん。
雄太 カモ。
お母さん そうだね。カモだね。ハイ立って。
雄太 全然動かない。
お母さん 動かないのは雄ちゃんでしょ。幼稚園遅れるよ。
雄太 立て! (カモを威嚇)
お母さん なにやってんの。ほら立って。
雄太 立て。
お母さん 立って。
雄太 立て。
お母さん 立ちなさい!
雄太 ああああああああ!
お母さん、雄太を持ちあげるようにして連れて行く
カモ、その後姿を見送って動く。するとカモのお腹から小さなヒナが出てくる。
ヒナは、全部で三羽。
母ガモは、ヒナの毛を整えてやる。
ヒナたちは、我先にと母の前を争う。
熾烈なポジション争い。
一羽、ほとんど毛をつくろってもらえないヒナがいる。
末っ子のヒナ。チビである。
母は、其の事に気がついているのか、いないのか。ヒナたちを置いて、川の中に飛び込んでしまう。
ヒナたちは、パニック。大鳴きして母を呼ぶ。
母は、その呼び声には応えない。ジッと子どもたちを見ている。
ヒナたちの猛アピール。
母は、動かない。
ヒナたちは、母の頑なな態度に音を上げたのか、それとも何が何でも母と一緒にいたいのか、岩から川にダイブする。
長男、次男とダイブ。母の元へ。
チビだけがダイブできない。
母は、チビを待つが、チビはひたすら鳴いてアピールするだけで、一向に岩を下りない。
母ガモは、岩に登る。
そしてチビを咥えると、川に放り出す。
チビ、水に入ると・・・意外に泳げた。
音楽スタート。
母に続いて泳ぐ練習をするヒナたち。
あっちに行ったり、こっちに行ったり。
ひととおり近所を探索すると、再び岩の上へ。
母に毛づくろいをしてもらい、お日様の光で暖を取る。
そこに幼稚園帰りの雄太が登場。
雄太 あ!
雄太、ヒナたちを観察する。
雄太 (思いついて)ごはん! ごはん食べる?
雄太、そう言うと一度退場。
目を覚ますヒナたち。一匹が岩から落ちると、他の二匹も川にダイブする。
母親も水に入る。
そこに雄太が登場。大きな袋を持っている。
雄太 パン!
雄太、パンをヒナたちに投げる。
猛烈な勢いでパンを食べるヒナたち。
チビは、兄たちの勢いに気圧されてなかなか食べられない。
雄太 お前も食べろ!
雄太、チビに食べさせようとエ夫してエサを投げるが、どうやっても兄達が食べてしまう。
雄太 お前じゃなくて、お前。違う。お前じゃないの。一番ちっちゃい・・・チビ。お前!
そうこうしている間に、エサがなくなる。
雄太 なくなっちゃった。
ヒナたち (鳴いて催促)
雄太 え? おかわり? 分かった。待ってて。
雄太、退場。
ヒナ達も雄太のあとについていく。退場。
- 成長
軽やかな音楽に乗ってカモたちが遊歩道の上に登場。
遊歩道を闊歩するカルガモ一家。
順番に川に飛び込む子どもたち。
チビも自分から飛び込む。
続いて岩の上に登る練習。
またダイブ。子ガモたちは、母に続いて泳ぎ回るうちに、どんどん泳ぎが上手になる。
音楽終わりで小岩の裏を通ると、ヒナたちは、成長した姿に変わっている。
子ガモたちは、もう母親を気にせず、辺りを泳ぎ回る。
水しぶきを上げて泳ぎ回る子ガモたち。
顔を水につけたり、潜ったりといった事も出来るようになっている。
母は、羽をはばたかせてみる。
子ガモたちは、すぐに真似をする。
続いて母ガモは、川から歩道に飛び上がる。
続く兄と弟。
チビも挑戦するが失敗。
その内に、母と兄たちは、遊歩道の上に再登場。
チビは、鳴いて母にアピールするが、母はじっと見ているだけ。
チビがあんまり鳴くので母は匙を投げたのか、行ってしまう。
引き続き挑戦しているチビの元に、幼稚園帰りの雄太が登場。
雄太 チビ頑張れ―
そこに猫が登場。チビが飛び上がろうとしているすぐ近くでくつろぐ。
雄太 (猫に)ちょっと。そこ邪魔だよ。
猫 (気にしない)
チビ (猫に気がつかず、飛び上がろうとしている)
雄太 (猫に)お前あっち行けよ。今チビが練習してるの。
猫 (チビに興味を示す)
雄太 (嫌な予感がして)あっち行けって。行け。
猫 (雄太を威嚇)シャッ!
雄太 うわ!
すくむ雄太。
猫がチビに触れそうになったその時、母ガモがものすごい剣幕で登場。
母ガモ グワグワグワグワ!
猫も応戦。しかし母ガモの勢いに負けて、引き下がる。
猫、退場。
母ガモ、チビを連れて退場。
雄太、しばし場の空気に飲まれていたが、やがて退場。
転換音楽。
上手窓枠が開く。
横になって布団をかぶっている雄太。枕もとに立つお母さん。
雄太 それでね。お母さんガモが、猫やっつけちゃったんだよ。
お母さん すごいね。お母さんガモ強いんだね。
雄太 最強だよ。・・・ねえお母さん。チビたちは、いつまであそこにいるの?
お母さん いつまでだろう。大人になるまでかなあ。
雄太 いつ大人になるの?
お母さん う~ん。アジサイの咲くころかなあ。
雄太 大人になっちゃったら行っちゃうの?
お母さん そうだね。大人になったらお引っ越しするだろうね。
雄太 お引っ越し! どこに?
お母さん もっと大きな川とか。
雄太 なんで?
お母さん 体も大きくなるし、エサも取んなくちゃいけないからね。
雄太 エサ雄ちゃんがあげるよ。
お母さん ダメよ。
雄太 なんで?
お母さん カモは野生動物なんだから。自分でエサを取らなくちゃ。そうだ。雄太今日もパン持ってったでしょ?
雄太 (布団に隠れる)
お母さん 都合の悪い時だけ隠れない。
風が出てくる。
雄太 風強いね。
お母さん 台風が来てるからね。
雄太 大丈夫?
お母さん おうちにいれば大丈夫。おやすみ。
雄太 ・・・
風が強くなる。
上手窓枠閉まる。
- 台風
風はどんどん強くなる。
ビニール袋などが飛んでいく。
カモ一家が登場。小岩の上でじっと耐える。
雄太が段ボールを持って登場。
雄太 おーい。これ。
雄太、そう言って段ボールを遊歩道の上に置く。
雄太 おうちだよ。ここに入れば大丈夫だから。
母ガモ (見向きもしない)
雄太 早く入って。早く! ほら。こっち!
母ガモ (無視)
雄太 風がどんどん強くなるよ!
母ガモ (無視)
雄太 (何とか体勢を立て直し)ほら。早く入って。
強風が吹く。
ダンボールが飛ばされる。
雄太 ああ! おうちが!
お母さんの声 雄太―!
お母さん、登場。
お母さん こんなとこで何やってんの! はやくおうちに入りなさい!
雄太 おうちが! カモのおうちが!
お母さん 早く!
お母さん、雄太を引っ張って退場。
風はいよいよ強くなる。
母ガモ、おもむろに岩を離れて川に入る。
子ガモたちも母に続く。
ビニール袋が飛んできて、チビに引っかかる。
チビ ピイピイピイピイ!
母ガモたちは、チビの声に気がつかない。そのまま行ってしまう。
チビは、ビニール袋に引っかかったまま流されていく。
猫が草むらの後ろから登場。チビの流された方向に退場。
風はピークを迎え、やがて静寂。
朝になって小鳥の鳴き声。
- 台風一過
雄太、走って登場。
カモたちの姿が見えないので、あたりを探す。
母ガモが大声で鳴きながら登場。その後ろに続く二羽の子ガモ。チビの姿はない。
雄太 あれ? チビは? チビ! チビ!
当たりを探す雄太。
その時、草むらの陰から猫が登場。ビニール袋を咥えている。
雄太 あ!
猫 (ビニール袋を捨てる)
雄太 ねえ。お前チビ知らない?
猫 (顔を洗っている)
雄太 ねえったら。
猫 (顔を洗っている)
雄太 お前もしかしてチビを・・・チビを食べてないよね?
猫 (伸びをする)
雄太 なんか言えよ!
猫 (無視)
雄太 わああああああ!
雄太、猫に突っ込んでいく。
ヒラリとかわす猫。
勢いあまって転ぶ雄太。
雄太 ああああああ(泣く)
その時、チビが登場。何食わぬ顔で川に飛び込む。
雄太 チビ!
母ガモが駆け寄ってくる。
チビは、母ガモに抱かれるようにして川を泳いでいく。退場。
あっけにとられていた雄太だが、ふと猫と目が合う。
雄太 あ・・・ごめんなさい。
猫は、雄太のことなどまるで気にしていないように草むらの方に向けて「ニヤァ」と、鳴く。
すると、草むらの陰から二匹の仔猫が、「ミャアミャア」と、顔を出す。そして母の元へ。
雄太 あ・・・
猫一家、のんびりと退場。
雄太のお母さんが登場。
お母さん 雄ちゃん。何してんの? 早く朝ごはん食べて。
雄太 ・・・
お母さん 雄ちゃん。
雄太 ねえお母さん。猫もね。お母さんだったんだよ。
お母さん え?
雄太 もうお母さんお腹減った。朝ごはんまだ?
お母さん (思わず)あ、ごめん。もうできてるから。
雄太 遅い! 僕先行くからね! (と、走って退場)
お母さん (我に帰って)え? 違うでしょ。遅いのは雄ちゃんでしょ? 待て雄太!
お母さん、雄太を追いかけて退場。
音楽の中でアジサイの花が咲く。
- 別れ
成長した子ガモたちが登場。もう見た目では、母ガモとの見分けがつかない。
子ガモたちは、「グワグワ」と、辺りを歩き回ったり、泳いだりしている。
一匹ずつの距離が離れている事も、子ガモたちが大人に近づいている事を感じさせる。
雄太が登場。パンの耳を持っている。子ガモたちにエサをあげる雄太。
子ガモたちは、エサをつつく。幼い時のエサの時間のあわただしさは、もうなく、子ガモも雄太もお互い慣れたものである。
ふと、母ガモが小岩の上で大きく羽をはばたかせる。
子ガモたちは、食べるのをやめて、母ガモに視線を集める。
母ガモ、水に下りると、助走をつけて飛翔。雄太の頭上を飛び越える。
雄太 わあ!
子ガモたちは、「グワグワ」と、母に呼応するかのように鳴き声を上げて、助走をつけて飛翔。
長男、次男と飛んでいく。
母ガモと長男と次男は、旋回して遊歩道を上手の方向に飛んでいく。
雄太 (残ったチビを見て)チビ。
助走をつけるチビ。飛翔。
が、歩道の上に着地。失敗。
雄太 チビは、まだ飛べないんだ。
チビ (再挑戦。失敗。もう一度。失敗。諦めて泳ぎ出す)
雄太 チビは、行かないの?
チビ (泳いでいる)
雄太 チビ。
雄太、パンの耳を投げる。
チビ、飛ぼうとした姿勢を解除してエサを食べる。
母ガモが戻って来て歩道に着地。チビを見つめる。
チビは、一瞬母ガモを見るが、再びエサを食べ始める。
母ガモ、踵を返し、飛んでいく。
チビは、気にせずエサを食べている。
雄太 ねえチビ。もう少しここにいれば?
チビ (エサを食べている)
雄太 僕、毎日パン持ってくるよ。
チビ (エサを食べている)
雄太 大丈夫。お母さんには、内緒だから。チビが飛べなかったら、みんなお引っ越しできないもんね。
チビ (エサを食べている)
その時、カモたちの羽ばたく音が聞こえて、三羽のカモが舞台奥を小さくなった姿で飛んでいく。
雄太 え? みんないっちゃうの? 待って。チビまだここにいるよ。チビ!
チビ、突然パニックを起こしてバタバタと飛ぼうとする。が、失敗。
今度は、歩道の上から飛び上がって飛ぼうとする。
失敗。チビは大きな声を上げながら、必死に何度も挑戦する。
雄太 (その練習する姿を見ながら)チビ。チビ。チビ。頑張れ。今だ。頑張れ。それ。それ。それ!
その瞬間、チビの姿が宙に浮かびあがる。
雄太 飛んだ。チビが飛んだ。チビが飛んだ! バイバイ。バイバイ!
チビ、鳴き声を上げながら飛んで行く。
舞台奥を小さくなった姿で飛んでいくチビ。見えなくなる。
固唾をのんでその姿を見送る雄太。
お母さん、登場。
お母さん 雄太ー。あっ。やっぱりパンの耳持ってる。またエサあげてたんでしょ。
雄太 ・・・
お母さん あれ? カモは?
雄太、突然お母さんに抱き着く。
お母さん、一瞬「?」となるが、すぐに事情を察して、
お母さん カモ、行っちゃったの?
雄太 (頷く)
お母さん そっか。
雄太 ・・・
お母さん でも大丈夫。カモはまた来てくれるよ。
雄太 (顔を上げる)また来るの?
お母さん うん。カルガモはね、自分の育った場所を覚えちゃうんだって。だからきっとまた来年ここに来てくれるよ。
雄太 本当?
その時、チビが飛んで戻ってくる。
チビ グンゲ!
チビ、そう鳴いて飛んでいく。
顔を見合わせる雄太とお母さん。
雄太 いま「本当」って言ったよね?
お母さん 言ったね!
雄太 チビ。僕待ってるからね。また絶対来てねー
手を振る雄太。お母さんが雄太の肩に手を置くと、突然走り出す。何かと思うとパンの袋の回収。お母さんは怒ったようなしぐさをするが、雄太のとぼけた笑いに気が緩む。
雄太、お母さんをせかして、家へ。二人、笑いながら退場。
音楽。
音楽の中で遊歩道の木々は、桜の花びらをつける。
- 春
ランドセルを背負った雄太が登場。
そこにカモが一羽飛んでくる。
雄太 あ! チビだ。お前チビでしょ?
チビ グエ。
雄太 やっぱり。ちょっと待って。お母さん呼んで来る!
雄太、退場。
悠々と泳ぐチビ。
猫が遊歩道を散歩する。
春爛漫のせせらぎ遊歩道の、何でもない一日の風景である。 終わり