『ふたりはともだち』戯曲

※本作品は人形劇団ひとみ座のレパートリー作品として上演されたものです。有償・無償に関わらず、本作品を上演をご検討される場合は、西上寛樹 info@amano-jaku.com までご連絡をお願いいたします。
また、縦書きのものをご覧になられたい方は、上記アドレスまでご一報ください。メールでお送りいたします。

人形劇団ひとみ座 篠崎亜紀・中村孝男 二人芝居

『ふたりはともだち』

「おはなし」「すいえい」「おてがみ」より

原作 アーノルド・ローベル

訳 三木卓

脚本・演出   西上寛樹

《舞台》

舞台全体は草むらのイメージ。

「草むらをのぞいたらこんな人たちが暮らしてました」というような。

舞台中央には二つのキノコ(幅1尺半×高さ3尺)がある。袖幕と背景幕も草や花などの植物が描かれている。

キノコはその上に人形を置いたり、セットを置いたりできるようになっていて、キャスターがついているので自由に動かすことが出来る。

 

《配役》

  • かえるくん      中村孝男
  • がまくん       篠崎亜紀
  • かめ・とかげ・へび  中村孝男
  • とんぼ        篠崎亜紀
  • かたつむり      篠崎亜紀

 

開演前。

ラグタイムミュージックが流れている。


おはなし

 

開演時間になって音楽が消えていく。

演者男、登場。

 

男 みなさん、こんにちは。これからはじまるのは「ふたりはともだち」というお話です。この「ふたりはともだち」ねえ、ふたりでやるんです。

 

演者女、登場。

 

女 (観客に)ケロケロ。

男 ケロケロ?なにケロケロって?

女 え?だって今日カエルの話するんでしょ?

男 うん。

女 だからケロケロって。

男 あ、カエルのご挨拶?

女 うん。

男 ああ・・・(観客に)ケロケロだって。

 

女、男にせまる。

 

男 なに?

女 ケロケロ。

男 やるの?

女 (うなづく)

男 ケロケロ。(観客のリアクションを気にする)

女 (そんな男の様子は気にせず)グエッグエ~!

男 グエグエ?なに?グエグエって。

女 だってがまがえるも出るから。

男 がまがえるのごあいさつ?

女 そう。

男 (観客に)グエグエだって。

 

女、男にせまる。

 

男 なに?

女 グエッグエ~!

男 それもやるの?

女 (うなづく)

男 グエッグエ~!

 

観客の反応を見て

 

男 みんな笑ってる・・・じゃ、みんなもやってみようか。

 

と、演者男と女は観客にかえるとがまがえるの挨拶を教える。

観客がそのあいさつをしてみたところで・・・

 

男  では会場がカエルでいっぱいになったところでお話をはじめましょう。草むらをのぞいてみると

女  こんな人達が暮らしていました。

 

演者二人、キノコ台の中から二匹のかえるを出す。

 

男  かえるくんと

女  がまくん

二人 『ふたりはともだち』

 

(以降「」内は人形の台詞とする。)

 

男  緑色がかえるくん。

女  こげ茶色ががまくん。

男  かえるくんはとっても早起き。「はあ~今日はいい天気だ。いっちに、さんし、にいっに、さんし・・・

女  がまくんはとっても寝ぼすけ。「ああ~今日もいい天気だなあ・・・もうちょっと…(寝る)」

男  かえるくんは足が長い。

女  がまくんは足が短い。

男  かえるくんはお花を育てるのが大好き。「あ、もう芽が出てる。」

女  がまくんはおやつを食べるのが大好き。「あ~ん。もぐもぐもぐ。」

男  かえるくんはお外で遊ぶのが大好き。「ケロ~ンケロ~ン。ねえねえ、がまくん。お外で遊ぼうよ!」

女  「遊ばないよー。だって僕、眠くなってきちゃったんだもん。おやすみ…(寝る)」

男  「あ」

女  がまくんはお家で寝ている方が好き。

男  かえるくんはしっかりもの。

女  がまくんはのんびりや。

男  かえるくんと

女  がまくん。

二人 ふたりはともだち。

男  この間、こんなことがありました。お日様がぽかぽかと優しいある日のことです。かえるくんは病気でした。「ゲロゲロ~。」

(以降は、演者は語り手の時間よりかえるの時間の方が主になるので書き方を逆転させる。語り手のみの時には単に男・女と書く。)

 

がまくん  かえるくん。君顔が青いよ。

かえるくん そりゃ青いよ。だって僕かえるなんだもん。

がまくん  それにしたって今日は特に青いよ。君、休んだ方がいいよ。僕のベッドで休みたまえ。

かえるくん ええ?別にいいのに…

 

がまくん、かえるくんを寝かしつけ、布団をかける。

 

かえるくん ありがとう。

がまくん  僕、お茶を入れるね。

かえるくん ありがとう・・・「がまくんは、かえるくんに熱いお茶をいれてあげました。」

 

がまくん、お茶を持ってくる。

 

がまくん  熱いから気をつけて。

かえるくん ありがとう。

 

お茶を飲むかえるくん。

 

かえるくん ああ~美味しかった。

がまくん  よかった。(お茶を片付ける)

かえるくん がまくんありがとう。おかげで僕すっかりよくなったよ。

がまくん  じゃあ寝なきゃね。

 

がまくん、かえるくんを寝かしつける。

 

かえるくん がまくんぼくね・・・

がまくん  寝なきゃね。

 

がまくん、かえるくんを寝かしつける。

 

かえるくん …あの、僕そんなに

がまくん  寝なきゃね。

 

がまくん、かえるくんを寝かしつける。

 

かえるくん …あのう、がまくん。

 

がまくん、かえるくんをじっと見つめている。

 

かえるくん 分かった寝るよ。(布団に入って)…じゃあがまくん。僕が寝るまで何かお話ししてくれないかなあ?

がまくん  おはなし?…分かった。じゃあ僕、お話考えるからちょっと待ってて。ええっと、お話お話…

男     がまくんは一生懸命お話を考えました。

 

がまくんはもう一つのキノコの上で考え事を始める。

演者男は、ウッドブロックを打ち始める。

がまくんは結局寝てしまう。

演者男は、がまくんを起こすようにウッドブロックを打つ。

 

がまくん  (目を覚まして)ああ!

男     がまくんはお話を思いつけませんでした。

がまくん  ねえ、かえるくん。

かえるくん え?

がまくん  僕、家の周りを歩いてみるよ。そしたらお話を思いつくかも知れない。

かえるくん うん。

がまくん  お話。

男     がまくんは、家の周りをぐるりぐるりと、回りました。

 

ウロウロするがまくん。

演者男は、再びウッドブロックを打ち始める。

結局がまくんは何も思いつかない。

 

がまくん  ダメだ。

男     やっぱりお話を思いつけませんでした。そこでがまくんは家の中に入り…

 

がまくん、逆立ちをする。

 

がまくん  グエ。

男     逆立ちをしました。

かえるくん がまくん、どうして逆立ちなんかしているんだい?

がまくん  逆立ちしたら…お話を…思いつくと思って…

かえるくん ええ?

がまくん  君は寝てて!

かえるくん うん・・・「がまくんは長いこと逆立ちをしていました。」

 

演者男、再びウッドブロックを打つ。

がまくんは次第にバランスを崩し、やがて転ぶ。

 

がまくん  うわあ!

男     やっぱりお話を思いつけませんでした。

がまくん  こんなんじゃダメだ!

 

がまくんはコップを取り出し、中の水を自分の頭にかける。

 

がまくん  びえ!

かえるくん がまくん!何してるの?

がまくん  (水を何度もかけながら)頭に、水をかけたら、もしかして、お話を、思いつけるんじゃないかなーと思って…寒い。

かえるくん 大丈夫?

がまくん  ダメダメ!君は寝てなきゃだめだよ!(かえるくんに布団をかける)

かえるくん でも…

がまくん  じゃ僕は忙しいから。お話お話…

男     がまくんはお話をなかなか思いつけません。そこでがまくんは頭を壁に…

がまくん  壁だ・・・

男     頭を壁にぶつけました!

がまくん  お話…お話…お話…お話―!

 

壁に突っ込むがまくん。

 

がまくん  お~は~な~し~…

かえるくん が、がまくん?ねえ?ちょっと…

がまくん  お話…お話…お話…お話―!

 

がまくん、また壁に突っ込む。

 

かえるくん ああ!

がまくん  お~は~な~し~…

かえるくん がまくん、いったいどうしたんだよ?

がまくん  何でもないよ。頭を壁にぶつけたら、お話を思いつくんじゃないかと思って。

かえるくん ええ?

がまくん  壁・・壁・・・壁。

 

がまくん、今度は客席の方向に壁を発見する。

 

かえるくん え?

がまくん  お話お話…

かえるくん がまくん、そっちの壁は駄目・・・

がまくん  お~は~な~し~お話―!

 

がまくん、客席に突っ込もうとしたその瞬間・・・

 

かえるくん なおった!

がまくん  え?

かえるくん 治ったよ!ほら!僕もう平気だよ!

がまくん  かえるくん、君、治ったの?

かえるくん うん!だからもうお話いらないよ。

がまくん  お話いらない?…はあ~。

かえるくん ほら見て!僕もうこんなに元気になったよ。

がまくん  僕は元気がなくなったよ。。

かえるくん え?

がまくん  かえるくん、君、本当にもういいの?

かえるくん うん。

がまくん  じゃあ君、そこをどいてくれたまえ。僕、頭がガンガンするんだ。

かえるくん そりゃ大変だ。

 

かえるくんは布団から出てがまくんが布団に入る。

 

かえるくん がまくん大丈夫?

がまくん  かえるくん。

かえるくん なんだい?

がまくん  君僕に何かお話してくれないか?

かえるくん お話?

がまくん  うん。

かえるくん お話ねえ。ちょっと待ってて。ええっと、お話お話…そうだ。がまくん。僕、お話一つ知ってるよ。

がまくん  じゃあそのお話を一つ頼むよ。

かえるくん うん。昔々あるところに二人の仲良しがおりました。一人はかえるくん、もう一人はがまくんです。

がまくん  僕達とおんなじだ。

かえるくん そうだね。…かえるくんは病気でした。かえるくんは友達のがまくんにお話してくれとせがみました。でも、がまくんはお話を思いつけませんでした。

がまくん  可愛そうに…むにゃむにゃむにゃ…

 

がまくん、眠りにつく。

 

かえるくん がまくんは家の前をうろうろしましたが、お話を思いつけませんでした。がまくんは逆立ちをしましたが、お話を思いつけませんでした。がまくんは…あれ?その後なんだったかな…そうだ!がまくんは頭に水をかけましたが、お話を思いつけませんでした。がまくんは頭をどしんどしんと壁にぶつけましたが、それでもやっぱり思いつけませんでした。今度はがまくんが具合が悪くなり、かえるくんはずっと元気になりました。それでがまくんがベッドに入り、かえるくんが起きて、がまくんにお話をしてやりました。おしまい。こんなのどうだい?がまくん?

がまくん  ぐうぐう・・・

かえるくん がまくん?

女     でもがまくんは返事をしませんでした。がまくんはもう、眠っていたのでした。

 

音楽。

演者二人は人形を遣いながら歌をうたう。

 

♪星も眠った静かな夜は

枕を並べてお話しよう

二人はいつも一緒だね

二人はともだち何でだろう

「知らない」

嬉しいときは「やったー。ばんざーい」

悲しいときは 「うえ~ん」

怒ったときは 「がまくんが悪いんだぞ」「かえるくんだぞ」「ふん!」

笑ったときは 「あはははは」

ケロケロケロケロケロケロ

グエッグエッグエッ グエッグエッグエッ

ケラケラケラケラケラケラ

グワッワッワ ワ~♪

 

男     かえるくんと

女     がまくん

二人    ふたりはともだち

男     これで一つ目のお話はおしまいです。さて、二つ目のお話は「おてがみ」というお話です。みなさんはお手紙を書いたり、もらったりしたことはありますか?(適当に応対)

実はがまくんはこれまで一度もお手紙をもらったことがないのです。さあ、それでははじめましょう。二つめのお話「おてがみ」。はじまりはじまり。

 

 

おてがみ

 

音楽。

演者二人はセットを飾っていく。

 

1 がまくんの家の前

 

女     さて、ここはがまくんのお家です。

男     がまくんのお家の前にはいつもからっぽのポストが一つ。

女     がまくんは朝からずっとお手紙が来るのを待っています。

 

がまくん、ポストを開けるが中は空っぽ。とぼとぼと戻って腰掛ける。

 

がまくん  はあ~。

 

演者男が蝶々を飛ばしてくる。

がまくんの頭にとまる。

 

がまくん  はあ~。

 

飛んでいく蝶々。

かえるくんが登場。

 

かえるくん がまくん、どうしたんだい?元気ないね。

がまくん  なんだ。かえるくんか…そうなんだ。今、一日のうちで一番悲しい時間なんだ。

かえるくん 悲しい時間?

がまくん  つまりね、お手紙を待つ時間なんだ。

かえるくん なんだ。君お手紙を待ってたのか。

がまくん  だから悲しいのさ。

かえるくん え?どういうこと?

がまくん  僕、お手紙もらったことがないんだ。

かえるくん ええ?君お手紙もらったことないの?

がまくん  うん。

かえるくん 一度も?

がまくん  うん。誰も僕にお手紙くれないんだ。

 

かえるくん、ポストを開く。

 

かえるくん ほんとだ。空っぽだ。

がまくん  ね。

かえるくん それは悲しいわけだね。

がまくん  はあ~。

かえるくん ねえ、がまくん。

がまくん  なんだいかえるくん。

かえるくん 森の方を散歩してみないかい?

がまくん  君一人で行けよ。

かえるくん そんなこと言わないでさ。ほら、新しい葉っぱのいい匂い。行こうよ。

がまくん  いいよ。僕はここにいるんだ。

かえるくん そんな事言ってたら君、面白いことをみんな逃がしちゃうよ。

がまくん  面白いこと?

かえるくん ほら、耳を澄ましてごらん。

がまくん  「がまくんは耳を澄ましました。すると、きらきら光る川の音が聞こえてきました。」川の音だ!

かえるくん 君、水泳したいって言ってたじゃないか。

がまくん  水泳!

かえるくん ほら。今日は水泳にもってこいの日だよ。

がまくん  水泳にもってこいの日…行こう!

 

がまくん、家の中に入り、鞄を下げて出てくる。

 

がまくん  おまたせ。

かえるくん 帰るころにはお手紙も届いてるかも知れないよ。

がまくん  本当かい?それなら今日は最高の一日じゃないか!

かえるくん そうだよ。行こう!

がまくん  行こう!

 

二人、退場。

演者は舞台を転換させていく。

 

 

女     がまくんとかえるくんは春の匂いでいっぱいの森の中を走っていきました。

男     そこには小さなせせらぎがあり、木漏れ日を受けてさらさらと流れていました。

 

2 川

 

かえるくんの声 とうちゃーく!

 

岩の上にかえるくんの服がかけられ、裸のかえるくんが登場。

 

かえるくん よ~し、それー!

 

と、川に飛び込み泳ぎ始める。

 

かえるくん ああ~。気持ちいいなあ~。がまく~ん。冷たくて気持ちいいよ・・・あれ?が

まくん?

 

がまくんが登場。

 

かえるくん 早くおいでよ。気持ちいいよ~。

がまくん  かえるくん。

 

かえるくん、泳ぎに夢中で気がつかない。

 

がまくん  かえるくん。

 

かえるくん、泳ぎに夢中で気がつかない。

 

がまくん  かえるくん!

かえるくん あれ?がまくん、まだそんなところにいたの?早くおいでよ。

がまくん  うん。でも僕かえるくんにお願いがあるんだ。

かえるくん お願い?

がまくん  僕がそっちに行くまでむこう向いててほしいんだ。

かえるくん なんで?

がまくん  僕、水着姿誰にも見られたくないんだ。

かえるくん がまくん水着着たの?

がまくん  うん。

かえるくん 僕は水着を着ないんだよ。

がまくん  僕は着るのさ。でも僕の水着姿、ちょっと変かも知れないんだ。

かえるくん じゃあそこの葉っぱで隠して入れば?

がまくん  そうするけど、むこう向いててよ。

かえるくん わかった。

 

がまくん、岩から出ようとするが、

 

かえるくん ねえがまくん。

がまくん  うわ!(隠れる)見ないでって言ったばっかりだろ?

かえるくん 見てないよ。

がまくん  見てたよ!むこう向いて!

かえるくん こうかい?

がまくん  そう。(岩から出ようとする)

かえるくん ねえ!

がまくん  うわ!見ないでって言ってるじゃないか。

かえるくん あの…むこう見るかわりに潜っててもいいかな?だって僕もっともっと泳ぎ

たいんだもん。

がまくん  じゃあ早く潜って!

かえるくん やったー!(潜る)

がまくん  まったく・・・

 

がまくん、岩から出て川に入る。

音楽。

泳ぐ二人の姿。

泳ぎの上手なかえるくん。上手でないがまくん。

大きな水しぶきと小さな水しぶき。

緑色の長い足と茶色の短い足。

水泳おわり。

 

二人    あっはっはっは。

かえるくん ねえ、がまくん今度は上の方まで行ってみようよ。

がまくん  いいね。行ってみよう。

二人    バシャバシャバシャ・・・

 

二人、潜ったと思うと、奥の川の幕にミニチュアで現れる。

 

かえるくん ぶはあ!

がまくん  ぶはあ!

かえるくん 気持ちいいね~。

がまくん  気持ちいいいね~。

かえるくん じゃあがまくん、さっきのとこまで競争しようよ。

がまくん  競争だね。いいよ。

二人    よ~い、ドン!

 

二人、潜ったかと思うと、かえるくんが先に現れる。

 

かえるくん ぶはあ!いえ~い!僕の勝ち~。

がまくん ぶはあ!はあはあ…すごいなあ。君、水泳の選手みたいだねえ。

かえるくん そう?えへへ。じゃあもう一回競争しよう!

がまくん ええ?もういいよ。君にはかなわないもん。

かえるくん そんなこと言わないでさ。じゃあハンデをあげるから。

がまくん  ハンデ?

かえるくん 君がスタートして10数えてから僕がスタートする。それならどうだい?

がまくん  それじゃあ君に勝ち目はないよ。

かえるくん そうかなあ?じゃあやってみよう。

がまくん  よいいくぞ。

ふたり   よ~い、ドン!

 

がまくんがスタートする。

 

かえるくん 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!

 

かえるくんもスタート。一瞬で奥ケコミに現れる。

 

かえるくん ぶはあ!僕の勝ちー!

がまくん  ぶはあ!はあはあ…

かえるくん あははは。今のはいい勝負だったね?

がまくん  そう?僕にはかなり差があるように思えたけど。

かえるくん よし!じゃあ今度は30秒のハンデをつけて…

がまくん  かえるくん。

かえるくん なに?

がまくん  もう水泳はおしまいだよ。

かえるくん え?…がまくんもう負けた気になってるんでしょ?ダメだよ、そんなこと

じゃ…

がまくん  そうじゃなくて!僕、体が冷えてきたんだ…ハックション!ぶるぶるぶる…

かえるくん そりゃ大変だ!早く上がって服を着なくちゃ!

 

二人はまた潜る。

かえるくんは陸にあがり、服を着る。

遅れてがまくんが現れるが水から出ようとしない。

 

かえるくん いやあ、楽しかったねえ。僕、お腹すいちゃった。お家に帰ったらご飯

を作ろうよ。水泳の後のご飯っておいしいんだよ。

がまくん  …

かえるくん あれ?がまくん?君、水からあがらないの?

がまくん  あがるよ。でも、君がそこにいるからあがりたくてもあがれないんだよ。

かえるくん どうして?

がまくん  忘れたのかい?僕、水着姿誰にも見られたくないんだよ。

かえるくん ああ!そうだった。じゃあ僕隠れてるからね。

がまくん  絶対こっち見ないでね。

かえるくん オッケー!

 

がまくん、岸に近づいていくと声がする。

 

声     がさがさがさ。

がまくん  うん?

声     がさがさがさ、がさがさがさ…

がまくん  だれかきた!

 

とかげが上手側の岩場に登場。

とかげも演者男が操っている。

 

とかげ   ぴょん。とかげ。

がまくん  とかげだ!かえるくん、とかげにあっちに行くように言ってくれよ。

かえるくん 分かった。(とかげに)ねえとかげくん。君、あっちへ行ってほしいんだけど。

とかげ   え?そりゃまたどうして?

かえるくん がまくんが変な水着を見られたくないんだって。

とかげ   変な水着?そりゃあ一体どんな水着?

かえるくん う~ん、どんな水着なんだろう?

がまくん  ちょっと!かえるくん!

かえるくん ああ!とにかくむこうに行ってよ。

とかげ   イヤだぴょん!

声     なんだいなんだい?ケンカしてんのかい?

がまくん  また誰か来た。

声     のそのそのそ、のそのそのそ…かめ。

がまくん  かめだ。

 

かめも演者男が操っている。

 

かめ    ケンカはいけないんだよ。

かえるくん ケンカしてるんじゃないんだ。がまくんの変な水着を見ないでってお願いして

るの。

かめ    変な水着?僕も見たい。

がまくん  ちょっとかえるくん!

かえるくん ダメだよ。がまくんは嫌がってるんだから。

かめ    駄目だって言われたら余計見たいよ。

声     変な水着ってどんな水着?

がまくん  また誰か来た!

へび    そろりそろり、そろりそろり…へび。

がまくん  へびだ!

へび    変な水着、私も見たいわ。

かえるくん ちょっと!まだ変な水着って、決まったわけじゃないんだからね!

声     それが本当に変な水着なら!

かえるくん 今度はそっちだ!

とんぼ   ぶんぶんぶん、ぶんぶんぶん、ぶんぶんぶんぶんぶん。とんぼ。

 

とんぼは演者女が演じている。

 

とんぼ   がまくんの変な水着、僕たちも見たい!

かえるくん ああ、がまくん、どうしよう。

女     がまくんはもう返事をしませんでした。

男     そんながまくんの気持ちはつゆ知らず、みんなは大声で囃し立てました!

一同    変な水着!変な水着!変な水着!

女     冷たい川の水はがまくんの足を芯から冷やし…

一同    変な水着!変な水着!変な水着!

男     やがて唇はぶるぶると震え始め…

一同    変な水着!変な水着!変な水着!

女     息はどんどん速くなり…

一同    変な水着!変な水着!変な水着!

女     みんなの声が耳の中をぐるぐる回り始めたその時!

一同    変な水着!

 

ストップモーション。

演者女、がまくんの遣いに戻る。

 

がまくん  寒い!…僕、ここから出なくちゃ駄目だ。

 

がまくん、水からあがる。

一同の注目が集まる。

 

一同    わっはっはっは。わっはっはっは。わっはっはっは。

 

一同退場。

 

かえるくん 駄目じゃないか。そんなに笑っちゃ。がまくんに悪いじゃないか。ねえ、がまくん・・・

 

かえるくん、がまくんを見る。

 

かえるくん ぷぷ…ぷぷぷぷぷ。

がまくん  かえるくん。君、何笑ってるの?

かえるくん だってがまくんの水着姿…なんだか、その…変なんだもん。

がまくん  だから言ったじゃん!変だって、僕言ったじゃん!

かえるくん はっ!

がまくん  …帰る!

かえるくん がまくん服は?

がまくん  ふん!

 

がまくん、退場。

 

かえるくん あ…ちょっと、がまく~ん・・・はあ。

 

かえるくん、退場。

舞台転換。

 

3 かえるくんの家

 

女     さてここはかえるくんのお家です。

 

演者女、ラジオのスイッチを入れる。音楽が流れる。

かえるくんが登場。

 

女     かえるくんは一体何をしているんでしょうね。

 

演者女、退場。

手紙を書くかえるくん。

 

かえるくん 『拝啓いかがおすごしですか』…かたっくるしいなあ。(紙を捨てる)ええっ

と…『やあ、どうだい?』…軽すぎ(紙を捨てる)『お元気ですか?』…元気なわけないだろ。(紙を捨てる)う~ん…

 

ラジオの音楽が終わり、ディスクジョッキーが話し出す。

 

ラジオ   草むらラジオよりスコット・ジョップリンの名曲「ソラス」をお届けしました。続きましてかたつむりさんのリクエストにお応えして「お手紙ソング」をお届けいたします。ラジオをお聞きの皆様もこの曲を聞きながらあなたの大切な人に手紙を書いてみてはいかがでしょうか?さ、「お手紙ソング」どうぞお聞き下さい。

 

♪手紙を書こう 今日書こう

手紙を書こう 何書こう

手紙は不思議 書いてると

あなたがここにいるみたい

手紙は不思議 届くまで

あなたがここにいるみたい

 

手紙を書こう 今日書こう

手紙を書こう 大好きな君へ♪

 

 

かえるくんは音楽を聴いているうちに筆が進むようになる。

歌が終わるころ、客席からかたつむりが「お手紙ソング」を歌いながら登場。

 

かたつむり ♪大好きな君へ~。

いますぐお届け。きちんとお届け。かたつむりの郵便配達でございます。あ!

あなたにお手紙が来てますよ。○○様からのお手紙です。

 

そう言って、客席の子供に一通手紙を届ける。

 

かたつむり 手紙はいいものです。書いて嬉しい。もらって嬉しい。でもこのごろは手紙を

書く人がめっきり減ったんですよねえ。みんなメールばっかり。誰か真心のこもった手紙を書いてくれる人はいないものかなあ。

かえるくん できた!

かたつむり えー?

かえるくん あ!かたつむりの郵便屋さんだ!かたつむりさーん!お願いしまーす!

かたつむり いました!いました!は~い。

 

かたつむり、客席から舞台へ。

 

かたつむり いますぐお届け。きちんとお届け。かたつむりの郵便配達でございま~す。

かえるくん かたつむりさん、この手紙をがまくんに届けておくれ。

かたつむり かしこまりました。いますぐお届けきちんとお届けかたつむりの・・・

 

と、歩き出すが歩みが遅い。

 

かえるくん あの、急いでお願いします。

かたつむり 速達ですね?

かえるくん はい!

かたつむり (歩き出す)いますぐお届け。きちんとお届け。かたつむりの郵便配達でございます。

 

かたつむりの歩みはやはり遅い。

かえるくんは待ちきれなくなって、部屋を出て行く。

 

かたつむり 今すぐお届け。きちんとお届け。かたつむりの郵便配達・・・「と、か

たつむりさんに付き合っていてもきりがないのでお話をぐんぐん進めましょう!かえるくんは森を駆け抜けてがまくんのお家へと走って行きました。」

 

舞台転換。

 

4 がまくんの家の前

 

かえるくんが大急ぎで登場。

 

かえるくん  がまく~ん!がまくん!ちょっと起きてよ!がまくん!いるんだろ?

がまくんの声 僕ここにいないよ!

かえるくん  …いるじゃないか。ねえがまくん、すごいことがあるんだよ!今日ね、君のポストにお手紙が届くかもしれないんだよ。

 

カーテンが開いてがまくんが顔を出す。

 

がまくん   お手紙?…そんなもの来ないよ。

かえるくん  そんな事言わないでさ、出てきてお手紙が来るのを一緒に待とうよ。

がまくん   いやだね。僕はもうお手紙を待つのはやめたのさ。

かえるくん  でも今日はお手紙が来るかも知れないんだよ。

がまくん   来ないよ!…君、僕の事笑ったし。

 

がまくん、カーテンを閉める。

 

かえるくん  それは謝るよ。ごめんなさい!でも今日は君と一緒にお手紙が来るのを待ち

たいんだ。だって君にとってはじめての、記念すべきお手紙なんだもの。

がまくんの声 …とにかくお手紙は来ないよ。さよなら。

かえるくん  いや、来るよ!今日は来る!

 

再びカーテンが開いて

 

がまくん   しつこいなあ。だって今まで誰もお手紙くれなかったんだよ。それがどうして今日になって突然届くのさ。そんなの変だよ。

かえるくん  変じゃないよ!だってお手紙書いたの僕なんだもん!

がまくん   え?…君が?

かえるくん  うん。

がまくん   それは本当かい?

かえるくん  本当さ!だから今日、君のポストにお手紙が届くんだ!

がまくん   お手紙が届く…

かえるくん  ほら、だから早くおいでよ。

がまくん   うん!

 

がまくんは家から出てくる。

二人は並んでお手紙が来るのを待つがかたつむりが来る気配はない。

 

かえるくん 来ないなあ。

がまくん  来ないねえ。

かえるくん 遅いなあ。

がまくん  遅いねえ。

かえるくん う~ん…

がまくん  ねえ、かえるくん。君、手紙になんて書いたの?

かえるくん え?それはね・・・『親愛なるがまがえるくん。僕は、君が僕の親友であること

を嬉しく思っています。君の親友 かえる』って書いたのさ。

がまくん  ああ。とてもいい手紙だ。

 

演者二人は人形から離れる。

 

女     お日様がぽかぽかと優しいある日のことです。がまくんとかえるくんは並んでお手紙が来るのをいつまでもいつまでも待っていました。

男     それで、お手紙は来たの?

女     もちろん来ましたよ。四日後に。

 

音楽。

 

かたつむりの声 かたつむりの郵便配達でございま~す。書いて嬉しいもらって嬉しいかたつむりの郵便配達でございま~す。

かえるくん   ねえがまくん。むこう向いてて。目をつむって。

 

かえるくん、表に出て

 

かえるくん   かたつむりさ~ん。こっちこっち~。

かたつむりの声 は~い。がまがえるさんにお手紙で~す。

 

かたつむり登場。かえるくんに手紙を渡す。

 

かたつむり   どうぞ。

かえるくん   ありがとう。

かたつむり   ♪手紙を書こう。今日書こう♪

 

かたつむり退場。

かえるくんはもらった手紙をポストに入れる。

 

かえるくん   ねえがまくん。

がまくん    うん?

かえるくん   ポストにお手紙が届いてるよ。

がまくん    え?本当かい?

かえるくん   本当さ。見てごらんよ。

がまくん    うん!

 

がまくん、ポストを開ける。

 

がまくん    あ・・・お手紙だ。やったー!お手紙が来たよ!

かえるくん   ふふふ。

がまくん    かえるくん一緒に読もう。僕お茶を入れるよ。

かえるくん   うん。

 

がまくんとかえるくんはそう言って家に入っていく。

演者二人が登場。

 

男    草むらをのぞいてみると

女    こんな人たちが暮らしていました。

男    かえるくんと

女    がまくん

二人   『ふたりはともだち』。おしまい。