脚本 中村 奈巳
2022年 11月29日
【登場人物】
ナナ 主人公。20歳
ルル ユニコーン
影
池ちゃん 専門学校の友人
ゆりえちゃん 専門学校の友人
江森久美子先生 専門学校の先生
赤岡先生 外科の先生
おばあちゃん 通行人
１ 神社
幼い頃のナナ（十歳）お参りをする。
ナナ （パンパン）みんなに好かれる明るい女の子になれますように！
ルル（声） どうしてそんな風に願うの？
ナナ 私、引っ込み思案だから。。明るくなりたくて。
ルル（声） ふうん。
ナナ あれ？今の誰？？
ひゅううー風が吹き抜ける。
ナナ 寒い！
２ 専門学校
ナナ（二十歳）。
服飾専門学校に通っている。
朝の教室。
ナナ、杖をついて現れる。
ナナ おはよー。。
池ちゃん おはよう！ナナ！？その足！どうしたの？
ナナ 昨日から痛くって。今日病院にいってくる。疲れた。
池ちゃん ええ。。大丈夫？なんだろうね。。。あ、そうだ、この間のデザイン画すごくよかったね！
その後、製作は進んでる？？
ナナ 全然ダメなんだ。毎日バイトだし、疲れちゃって。
池ちゃん バイトの後は？何してるの？
ナナ 。。寝てたり。。映画観てたり。。。
池ちゃん もう、その時間を製作にあてるんだよ！
ナナ パワーの充電が必要だよ。映画も作品づくりのヒントになるし。。
池ちゃん でもそれじゃ、課題、進まないよ。
ナナ 足も痛くて、引きずるようにしか歩けないし。。
池ちゃん 困ったねえ。ボロボロだなあ。
ゆりえ、背後で 聞こえるように、
ゆりえちゃん なんか頭にくるよね。勘違いしてる。
ナナ、振り向くことできず、何も言えない。
ナナ （モノローグ）わたしのこと？どうしてあんなひどいこと言えるんだろう。言われた人の気持ち、考えたことあるのかな。
池ちゃん ナナ。江森先生が呼んでる。
３ 教員室
江森先生 ナナさん、あなた欠席が多くて出席日数が足りなくなりそうよ。あと一回遅刻したら、二年生にあがれないよ。どうするつもり？
ナナ はい。。すみません。。
江森先生 あなたやれば出来るのに。もったいないよ。何のためにこの学校へ入ったの？
ナナ はい・・・・・
江森先生 ふう。いつも見ていて思ったの。あなたは優しいけれど、もっと自分の想いを話す練習をした方がいいよ。
ナナ 。。。
江森先生 考え込んでいても仕方がない。頑張りなさい。足は病院で診てもらいなさいね。
４ 診察室
CTの写真をみる医師とナナ。
赤岡先生 CTの結果は何も異常がないねえ。
ナナ 昨日おばあさんに会ってからなんです。杖を突いて歩いているおばあさんを見たら自分まで足が痛くなって、杖なしに歩けなくなっちゃって。先生、信じてもらえます？
赤岡先生 目の前の人に共感しすぎて、その人の気持ちが自分の気持ちのようになってしまっている。
ナナ え？
赤岡先生 そんなことを聞いたことがあるよ。専門外だが。君は繊細なんだな。うーーーーん。考えすぎじゃあないかなー。ストレスをため込まないようにね。
ナナ でも。。はい。。ありがとうございました。。。
５ ルル
ナナ、途方に暮れ、土手に座って夕焼けを見ている。
ナナ どうしてこうなんだろう。もう助けて。
一番星が輝くころ。
夕焼け雲の向こうからユニコーンが飛んでやってくる。
ルル ナナちゃん！やっと会いに来たよ。助けてって呼ばれないと降りられないんだ！
ナナ ユニコーン！？これは夢！？ふわふわのたてがみ！触ってもいい？懐かしい、いい匂いがする。。。
ルル 僕はルル。ナナちゃんが小さな子供の頃からずっと見てたよ。
葉っぱの上の雨つゆを見てニコッとしたでしょう？僕はそれに助けられた。子供が笑うと妖精が生まれるって聞いたことあるかな？ナナちゃんのパワーはすごいよ。君は僕の心の太陽なんだ。
ナナ 驚いた。でも。。今の私はどうしてこんななの。。。
ルル 君には叶えたい夢があるでしょう？
ナナ うん、私。。。ものをつくることが大好きなんだ。作りたいものが沢山頭に浮かんできて、ワクワクするんだ。でも今は疲れやすくて、何もできないまま、毎日がどんどん過ぎて行ってしまって、ひとつも形にすることが出来なくて、ほんとうにつらい。
ルル ナナちゃん！君を助けたいんだ。今夜は大満月の夜だよ。これから起こることに驚かないでね。怖がらなくていいよ。
月の光がさしてくる。
ナナ 眩しい！
ルル 来た！
月の光で影が飛び出す。
６ 影
影 ぷはああー！やっとおりられたあ！ひゃあああー！歩ける！さわれる！ずっと外に出たかったの！
ナナ あなたは？真っ黒な影！がしゃべってる！
影 もう！何やってるのよ！私あなたに言いたいことが沢山あるのよ。いつもいい訳ばかりして、頭に浮かんだことを形に出来ていない。
ナナ 。。。そうだね。
影 ほら！そうやって！何も言えない！学校でゆりえちゃんがあなたにヒドイことを言ったけど、あながち間違っていないし。あなたのこと見透かしていたのかも。
ナナ ひどい。言われたほうの気持ちを考えないの？
影 私は共感なんてしない。苦しいだけ。自分の思ったことを言えない子よりずっと良いよ。わがままでいいんだよ。そうすれば人のわがままも許せる。
ナナ そんな。。わがままって悪いことでしょ？
影 そうかな？みんなが言うことを聞いた方が都合がいいから、わがままはいけないなんて教えるんじゃない？
ナナ 。。。？？？
ナナ、何も言えない。
影 言いたいこと言ってごらんよ。みんなに好かれる女の子になれますように！！！なんて願って。ヘドが出るのよ。
ナナ どうしてそれを知ってるの！？
影 何にも知らないで、のんきなものだわ。
ナナ な、なによ。私の願い事だもの、とやかくいわれたくない。
影 私の願い事だから言ってるのよ！私そんなこと願ってない！！！
ナナ 私？。。ってあなたは私なの？
影 ・・あなたについていけなくなった、私よ。
ルル 影のナナは、君が幼いころ神社でそれを願ったときに生まれたんだ。
回想。
神社で願っている幼いナナ。
ナナ （パンパン）みんなに好かれる明るい女の子になれますように！
ルル（声） どうしてそんな風に願うの？
ナナ 私、引っ込み思案だから。。明るくなりたくて。
ルル（声） ふうん。
ナナ あれ？今の誰？？
ひゅううー風が吹き抜ける
ナナ 寒い！
回想シーン終わり。
ナナ あれはルルだったの！？
ルル うんそうだよ。いつも話しかけてたよ。
ナナ ずっと一緒にいてくれてたんだ。。。
影 神社にユニコーンてのもヘンな話だけどね。
ルル ほっといてよー。あの風が吹いた瞬間に影ナナが生まれてさ、僕にギャーギャーピーピー文句を言ってくるから、ほんとうにまいったよ。
影 ギャーギャーピーピーとは何よ！
ルル だって本当に、幼いころの影ナナは手が付けられなかったよ。われ、あり！という赤ちゃんと一緒で、自己主張の激しいこと。人の言うことは聞かないし、すぐ泣く、すぐ怒る、すぐ笑う・・
影 それが私です。
ナナ 堂々としてるなあ。
ルル、ニヤニヤして、
ルル もし影ナナが小学生やっていたとしたら、きっと時間は守らないし、宿題は嫌がるし、人に気をつかえないし、怒られてもニコニコしてるし、逆ギレするし、すぐ人のせいにするし・・って大変だったろうなああ。
影 ちょ、ちょっとちょっと、何よ！ちびっ子ユニコーン！！
ルル なんだと！気にしてることを！
ナナ あはは！ルルはどうして助けにきてくれるの？？
ルル 僕たちユニコーンは地球のお手伝いをしているんだ。人間の子供たちをサポートして成長させるのが仕事だよ。子供たちが元気になると、僕たちにもいい影響が生まれる。僕たちはこの世界をもっともっと良いものにする、そういう使命があるんだ。ひとりひとりの子供みんなについていて、大人になるまでフォローしているんだよ。僕たちは自然に宿っているから、自然に触れてほしい。ナナちゃんは自然とつながりやすいから、大きなパワーを持っているよ。
影 大きなパワーが聞いてあきれるわ。ほんとうに見ていて頭にくるのよ！課題だって、ただやるだけなのに、何やってんのよ！
ナナ （小さめの声）だって・・疲れてるの。もうボロボロ。足も痛いし。
影 やりたいことがあるならやるだけ、取り組めばいいじゃない！もう分かった。あたしがやるのをみてて。あたしならデザイナーになれる！
ナナ そんな、駄目だよ。私はどうなるの？
影 疲れてるなら休んでたらいいよ。もう見てられないよ。
ナナ 待ってよ！
影 待たない！我慢の限界だよ。私が可哀想！
ナナ きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーー
７ 再び学校
ナナと入れ替わった影。
ナナの意識とルルは少し上から見ている。
池ちゃん ナナ！この間のデザイン画すごくよかったね！その後、製作は進んでる？？
影 池ちゃんはね、ちょっと説教くさいのよ。
池ちゃん えっ・・・！？
ナナ こらー！なんてこと言うのよ！
ルル 影ナナ。
池ちゃん そんな！私はナナのデザイン画がすきだから、いいものが出来るのが楽しみなだけだよ。
影 課題進んでるー？私も進んでないー！みたいな安心ごっこはうんざりだよ、やるだけだよ。
ゆりえちゃん ナナなんか別人だね。。嫌いじゃないけど。前は何にも言い返せなくてもごもごしてて、何考えてるか分かんなかった。
ナナ ゆりえちゃん。。
ルル ナナと話したかったんだ。
池ちゃん ナナ。江森先生が呼んでる。
８ 教員室
江森先生 ナナさん、あなた欠席が多くて出席日数が足りなくなりそうよ。あと一回遅刻したら、二年生にあがれないよ。どうするつもり？
影 久美子ちゃん、出席日数ってナンセンスだよね。
ナナ ちょ！先生のこと久美子ちゃんって、友達じゃないんだから！
ルル 影ナナらしいよー！
影 あたしやる気も熱意もあるし、ただ時間に遅れてしまうだけなんだ。体調悪かったら休むこともあるし。それだけで進級できなくなるなんて、納得いかない。あたしが今度のコンテストで入賞したら、チャラにしてもらえませんか？
江森先生 言うわねー。気に入ったわ。やってごらん。でももし入賞出来なかったら、決まりなんだから大人しく留年して勉強しなさいね。
影 やったね！やるわよー！
ナナ ええーーーー！？
９ おばあちゃん
帰り道、影ナナの目の前を杖をついたおばあさんが歩いていく。
ナナ あ！あのときのおばあちゃん！
影 おばあちゃん、足が痛いの？
おばあちゃん ええ、しんどくてねえ。
ナナ ルル！このおばあちゃんよ！私、このおばあちゃんと会って、見ていたら自分まで足が痛くなったのよ。
ルル そうだったねえ。。
影 この階段、おんぶしてあげます！
おばあちゃん いやいやだいじょうぶ。。
影 私、今、嬉しくてしかたないの！よいしょー！
影、おばあちゃんをおんぶして階段をあがる
おばあちゃん （笑って）あらあら、ほんとうに元気ねえ。なんだかこっちまで、心が軽くなるねえ。
ナナ 影ナナ。。
ルル やるじゃん。
１０ 製作
ナナの自宅。ナナと影とルルが課題について話し合っている。
ルル テーマは決まってて『スイング』だって！
ナナ スイングって、スイングする、とか言うよね、振る、振り子のように、揺れるとかのイメージ。。
影 スイングをイメージした服？を作るの？？うーーん。。ブランコのプリント？？
ナナ そうじゃない！共感できない人の作品なんて独りよがりだわ！
影 あたし、形にしていくのは得意だけど、イメージする、デザインの方は苦手かも。。
ナナ 共感をするといろんなものからインスピレーションがえられるんだ。自然の美しい物や音や空気に心動かすことができる。それと共鳴して無限にアイディアが湧いてくるの。
ルル ふふふ。二人で一人なんだよ。
影 ルル、笑ってるばあいじゃないわ。
ナナ 私がデザインする！スイング。。ちょっと浮かんだんだけど、アヒルとかひよこの可愛いおしり。歩くとふりふり揺れるの。可愛いんだ。トップは開襟のマドンナみたいなシャツでボトムスがアヒルのお尻みたいなのにして、タイツを履いて。。頭にスカーフを巻くの。
影 まいったわ。イメージはあなたに任せて、現実に形作るところをあたしがどんどんするわ。おしりの部分はワイヤーを入れるか、ボーンを作らなきゃね。
ルル ぼくのおしりも可愛いよ！
影 ハイハイ、わかった、わかった。
ナナ あはは！生地を見に行こうよ！あーワクワクしてきた！
作業中。
ナナ 影ナナ。今までごめんね。私があなたを追い出してしまってた。
影 うん。
ナナ 私にはあなたが必要だわ。
影 うん。（にっこり）
１１受賞式
作品が無事入賞し授賞式に出席している。
池ちゃん ナナおめでとう！！
ゆりえちゃん おめでとう！！
江森先生 ほんとうにやったわね。
ナナ ありがとう。（涙）
ルル 調子はどう？
ナナ 影と一緒になっていつの間にか足も治ってた。心が沸き立つの。私やるわ。やっと私の人生が本当に始まった気がする。あれ欲しい、これ欲しい、ああしたい、こうしたいってこと、全部やってくよ。なんだかいま私、魔法が使えそうな気がする。
ルル ナナはほんとうにエネルギーに満ち溢れた人なんだ。これから望んだことが叶えられる人生になるよ。忘れないで。人はみんなほんとうは魔法を使えるんだよ。会えなくなっても見守っているからね。
ルルの身体がぐんと大きくなる。
ナナ ルル！あなた！大人になったの！？立派なツノ！！！
ルル ナナが成長したから、僕も青年になったよ。ユニコーンは人間を助けると子供から大人になれるんだ。ああ、すがすがしい気分！駆け回りたいな！
ナナ 私も！背中に乗せて！
二人で空を駆け回る。
たてがみにつかまるナナ。
ナナ・ルル （嬉しくて興奮した笑い声）
ナナ きゃーーーー！最高！ルル、今までほんとうにありがとう。さようなら。これから影ナナとふたりでやっていくからね。みていてね。大好き。
おわり