脚本 瀬戸口亮治
2022年11月27日
【登場人物】
タロウ(小学2年生)
ツネオ(小学2年生)
アズキ(小学2年生)
カスミ(小学2年生)
ヒカル(小学2年生)
まおう
カナヘビの精霊
一、帰り道
学校がおわり、あつまった子どもたち。歩きながら何をするか、そうだんする。
タロウ なんかおもしろいことないかなあ。
アズキ そういえば、おじいちゃんが言っていたけど、はずれにあるじんじゃのおくのほう、ぜったいに行くなって。
タロウ どうして?
アズキ まかいがあって、そこに入ったらもどっててこれないっていいつたえがあるんだって。
カスミ こわい~
タロウ おもしろそうだなあ。行ってみようぜ。
ツネオ そうだ。行こう、行こう。
ヒカル どうしよう。
カスミ だめ、こわいよ。
アズキ そうだよ。せと口先生もあぶないところ、行ったらだめって、言っていたよ。
タロウ あいつの言うことなんか聞かなくてもいいさ。おれは、スリルをあじわいたいのさ。
ツネオ タロウくん、かっこいい。
タロウ 早くしないとくらくなっちゃうよ。行こうぜ。
子どもたち、退場。
二、神社
子どもたち、登場。
カスミ なんか、ぶきみ。こわいよ。
ヒカル あれ、ここって、タロウくんがかっていたカナヘビのカナちゃんのおはかがあるところじゃない?
タロウ そうだよ。なつかしいなあ。カナちゃん、天国で元気にしているかなあ。
子どもたち、カナのお墓に手を合わせる。
ヒカル タロウくんって、ほんとうはやさしいんだよね。
ツネオ タロウくん、いっしょうついていきまっせ。
アズキ ツネオくんって、いつもちょうしがいいよね。
タロウ じゃあ、いよいよおくのほうに行ってみようぜ。
カスミ こわいよ。まかいに入ったらもどってこられないって、アズキちゃんか言っていたじゃん。
アズキ やっぱりもどろう。いいつたえにはきっとわけがあるよ。
タロウ そんなのめいしんだって。ほんとうにおくびょうものだなあ。
ツネオ そうだ、そうだ。
アズキ なんですって。こわくなんかないわよ。行くわよ。
子どもたち、さらにすすむ。とつぜん、つよい風がふいてくる。
みんな うわあー。
子どもたち、くちぐちにさけびながら、うごきまわる。さらに下におちる。
三、魔界
タロウ みんな、だいじょうぶか。
アズキ だいじょうぶだよ。
ツネオ ぼくもだいじょうぶです。
カスミ ここ、どこ?こわいよ。
ヒカル カスミちゃん、だいじようぶだよ。みんながいるよ。
まおう、とうじょう。
まおう まかいへ、ようこそ。みなさんみたいに、おとなの言うことを聞かない子がいて、わたしもうれしいよ。ホッホッホッ。
タロウ なんだと。おれたちを、もとのせかいにかえせよ。
まおう それはできませんね。だって、めいしんなんてしんじないのだろう。
カスミ えーん。おかあさん。
アズキ だから、だめって、言ったのに。
ツネオ タロウくんのせいだよ。なんとかしてよ。
ヒカル タロウくんひとりをせめたらだめだよ。けっきょくいっしょに来たんだから。まおうさん、どうしてももどれないのですか。もどれるなら、なんでもします。
まおう ほう、なんでもするのかい。わたしもおにじゃない。それならば、これからいくつかしれんをあたえるよ。四つ、クリアしたら、もとのせかいにもどしてあげよう。ただし、四つしっぱいしたら、いっしょうここから出られないぞ。
ツネオ そんなあ~
タロウ わかった。どうせ、チャレンジしないと出られないんだから、みんな、チャレンジしよう。
まおう それでは、ひとつめのしれんだ。ジャージャン。「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ。」
アズキ かんたんじゃない。フライパンよ。
まおう やるなあ。それでは二つ目のしれんだ。「上は大水、下は大かじ、なーんだ。」
アズキ おふろよ。
まおう くそー。これならどうだ。「九ひきのトラがのっているのりものは何?」
アズキ トラックよ。かんたんすぎね。これで三つのしれんをクリアよ。
タロウ アズキ、すごいぞ。このちょうしでぜんぶクリアしよう。
まおう さあ、そんなにかんたんにいくかなあ。つぎのしれんはこれだ。「ボールはボールでも、しかくいボールは?」
アズキ えー、そんなボールはないわよ。
まおう それがあるんだな。こたえは、ダンボールだ。
ツネオ なんだよ。アズキ、おまえのせいでひとつ、しっぱいしたじゃんか。
まおう、すこし大きくなる。
アズキ なによ。もう知らない。じゃ、あとはあんたがやってよね。
まおう つぎはおまえか。どんなしれんをあたえようかな。「子どもが五人いる。一人に三こずつおかしをくばるとする。ぜんぶでなんこひつようかな。」
ツネオ えー。えーと、五たす三で八こかな。
まおう ブー。まちがっているぞ。
タロウ ツネオ、よく考えろよ。おまえのせいで二つめのしっぱいだ。かけざんだよ。
まおう、またすこし大きくなる。
まおう そのとおりだ。では、タロウ、おまえにこたえるチャンスをあげよう。
タロウ 五三、十五。十五こだろ。
まおう ピンボーンと言いたいところだが、ブー。正しくは、三こずつ五人にくばるから、三五、十五だ。
カスミ えーん、タロウもよく考えてよ。もうあと一つでかえれなくなるよ。もうだめだ。
タロウ アズキやツネオもまちがえたじゃなないか。もういい。やめた、やめた。
ヒカルいがいのみんな、なきだしたりおこったりする。
ヒカル みんな、まつて。なんかおかしい。まおう、だんだん大きくなってない?
チーン、チーンときれいな音とともに、せいれいがあらわれる。
カナ タロウさん、わたしは、いぜん、あなたにそだててもらった。カナヘビのカナのせいれいです。ヒカルさんのいうとおりです。まおうは、あなたたちのいかりやぜつぼうをエネルギーにしているのです。あきらめてはいけません。みんなで力をあわせれば、きっとうまくいきます。
ヒカル カナちゃんの言うとおりだよ。みんなで力を合わせてがんばろう。
タロウ カナちゃん、ヒカル、ありがとう。アズキ、ツネオ、カスミ、さっきはごめんな。みんなで力を合わせて、ぜったいに帰ろうぜ。
みんな えいえい、おう。
まおう くっそう。いいところだったのに。だが、あと一つでおしまいだ。それでは、つぎのしれんだ。「十三かける五はなーんだ。」まだ二年生だから、これはとけないだろう。
ツネオ ならってないよ。やっぱりだめだ。
カナ あきらめてはいけません。今こそ、みんなで力を合わせてください。
タロウ あきらめるな。みんなでよく考えるんだ。
ヒカル まず、図にかいてみよう。そしたら、なにかいい考えがうかぶかもしれないよ。
みんなで、まるくなってそうだんする。
アズキ ここで分けたら、ならっているかけ算九九になるよ。
ツネオ なるほど。七五、三十五。
カスミ 六五、三十。
ヒカル 合わせて六十五です。
まおう ざんねんだが、せいかいだ。
みんな やった。これでもとのせかいにもどれるぞ。
まおう、もとの大きさにもどり、ヘビのすがたにもどる。
タロウ おまえ、ヘビだったのか。
カナ じつは、まおうはもともとヘビだったのです。わたしは、タロウさんにかわいがってもらったので、せいれいに生まれかわることができたのですが、むかし、いじめられて人をにくみながらなくなったヘビは、まおうに生まれかわったのです。それで、まかいに入ってきた子どもたちをかみかくしにしていたのです。
タロウ そうだったのか、おまえもかわいそうだったんだなあ。もとのせかいにもどったら、おまえのおはかもつくってあげるよ。
まおう ありがとう。わたしも、生きているときにおまえたちに会いたかったよ。さあ、やくそくだ。もとのせかいにもどしてあげよう。
カナ タロウさん、ありがとう。おんがえしができてよかったです。わたしは、ヘビさんとこのせかいでなかよくすごしたいと思います。みなさん、お元気でさようなら。
みんな さようなら。おまえたちもなかよくね。
つよいかぜがふき、子どもたち、もとのせかいにもどる。
みんな うわあー。
子どもたち、くちぐちにさけびながら、うごきまわりながらぶたいの上にいどうする。
四、神社
タロウみんな、だいじょうぶかあ。
みんな (口々に)だいじょうぶ。
アズキ ここ、どこ?
カスミ じんじゃだよね。じんじゃだよ。
ツネオ やったあ、もどってこれたんですね。
ヒカル カナちゃんのおかげだね。あきらめかけたとき、カナちゃんがはげましてくれなかったら、きっと、もどってこられなかったよ。
みんなで、カナのおはかに手を合わせる。
タロウ あしたは、やくそくどおり、まおうのおはかもたててあけようぜ。
みんな うん。
タロウ ああ、おなかすいたな。帰るとするか。じゃあ、みんな、またあした。
みんな バイバイ。またあしたね。
子どもたち、手をふりながら、元気に帰って行く。
おわり